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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
123/476

123,

「んなあああっ!また負けた……」


 ――何度目かのアキラの悲鳴が、ロビーに響き渡る。


「弱いですわぁ。ワタクシ、かなり手加減してるのに……」


 アザレアは、頭を抱えるアキラを珍しいものを見るかのように見つめる。そのまままったく動かなくなってしまったアキラをよそに、頬杖をついて目を瞑っていたイツキが、ぱちりと目を開けた。


「五時だ。そろそろ片すぞ」


「ですわね。一晩中模擬戦略(タクティクス)してたなんて、ローレンスにバレてごらんなさいな」


「うわ」


 アザレアが、いそいそと駒を拾い集める。アキラが木箱を片付けている間に、イツキは立ち上がって伸びをした。


「貴方だけでも部屋に戻って寝てれば良かったのに」


 肩にかかった巻き髪を払い除けて、アザレアが言う。


「そもそも睡眠が必要じゃないから。部屋に戻ったところで眠れないし、暇なだけだろ。――つまらない」


 徐々に明るくなる陽の光を、紅い虹彩が吸い込んで輝く。アザレアはくすりと笑った。


「あら。じゃあ、ワタクシたちのタクティクスは、楽しかったということかしら?」


「――さあな」


 つれない返事。しかし、その裏にある彼の感情に、アザレアはただ微笑んだ。



 ――その時、



『ガタッ』



「!?」


「――誰だ?」


 外につながる階段の上の扉から、小さな物音が聞こえた。イツキもアザレアも、思わず身構える。

 しかし、


「あ……ご、ごめんなさい」


「ローリエ?」


 アザレアが目を丸くする。扉の影からこちらを伺っているのは、淡い空色のパーカーを着た小さな人影――ローリエだった。

 ふたりは身体の緊張を解く。


「え、あれれ……ローリエじゃん」


 ロビーの奥の方からアキラも帰ってくる。ローリエはロビーの中に入って、三人に駆け寄って来た。


「こんなところまで……一体、どうしたっていうんですの?」


 アザレアはしゃがみ込むと、ローリエと目線を合わせる。ローリエは困ったように眉を寄せて、三人を見た。


「あのね……天音お姉ちゃんって、今どうしてるかわかる?」


「……修繕師がどうかしたのか?」


 イツキは怪訝な表情を浮かべる。ローリエは彼を見上げた。


「きのうの朝から、ご飯を食べに来てくれてないの。ルクスも来てくれないし……しんぱいだから、見にきたんだけど」


 ローリエの言葉に、三人は顔を見合わせる。


「先生なら、少なくとも昨日は見てないような」


「確かに。ワタクシも、二日前――あ、日付が変わってますわね。三日前に首都中枢塔まで護衛したのが最後だった気がしますわぁ」


 アキラとアザレアは眉をひそめる。そんなふたりを見て、イツキは首筋に手を当てた。


「――探してみるか?」


「え……できるの?」


 ローリエが瞬きをする。イツキはうなずいた。


「闇雲に敵を探知するより、対象が定まっていたほうが索敵(エネミーサーチ)は使いやすい。――修繕師は別に敵じゃないけど」


 そう言ってイツキは静かに目を閉じると、すぐにまた目を開いた。


「工房にいる。ルクスも同じだ」


「じゃあ、行方不明ということではないのですね」


 アザレアが胸をなでおろす。アキラはロビーから続く入り組んだ廊下を指さした。


「行ってみる?」

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