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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
122/476

122,

「本体は、こんな感じでいいかなぁ」


 顎に手を当てて天音は呟く。《血紅石》は天音の欲しかった形を象って、天音の胸のあたりに浮いていた。


「やっぱり、《血紅石》は扱いが難しいな。疲れた」


 出来上がったものをデスクの上に置くと、天音自身はソファーに転がった。ぐっと伸びをすると、カーテンの隙間から西日が差し込んでくるのが見える。気がつけば昼食も忘れて、丸一日没頭していたらしい。天音はため息をついた。


「時間かかりすぎてる。――駄目なんだよ、これじゃ」


 軽い目眩と頭痛を感じながらも、天音はどこか焦燥を滲ませた声で呟く。


 “精霊の加護(プロテクション)”はこんなふうに乱暴に使うものじゃない。

 本来、1500℃で融解するような金属を素手で溶かして、原子レベルで構造を改変する。こんな自然の摂理と逆行するようなパワープレー、簡単なはずがない。

 それでも、


 ――次、いつ敵が攻めてくるかわからないのに


 なんとしても、次戦闘が起こる前に作り上げたい。早さを求めるから、プロテクションを使った加工しか天音には残されていないのだ。


「……次は、こっちの加工」


 天音はのそのそと起き上がる。傾いた陽の光の最後の一片が投げかける光を、《血紅石》が吸い込んだ。

 同じデスクの上に置いてある金色のナイフを、天音はそっと手に取る。


「ごめんなさい。大事に使います。――あなたの友だちを、助けてあげてください」


 きゅっとナイフを握りしめて、天音は囁く。

 元は生きていた、本来ならまだ生きられるはずだったアーティファクトの部品。使うときには、いつだってひとつひとつに思いを込めて使わないといけない。


 ――修繕(リペア)を教えてくれた『師匠』に教わったことだった


 ゆっくりと金属が溶けるイメージをすれば、ナイフはあっけなく原型を失った。


「そっか。プロテクションを媒介する素材だから……言うこと聞いてくれやすいんだ」


 金色の液体のように揺蕩うそれは、天音の向き合わせた両手のひらの間で、球状にまとまって揺れる。


「――よし」


 天音は静かに息を吐き出すと、再び素材に神経を傾ける。

 夜は更けていった。



<><><>



「んふふ〜。これで、チェックメイトですわぁ!」


「はああっ!?――またかよ、も〜」


 三人以外誰もいない、境界線基地(ボーダー・ベース)のロビー。何をするでもなく、ぼーっと窓の外を眺めていたイツキは、アキラの悔しそうな悲鳴に顔を向ける。

 アキラとアザレアが、伏せた木箱を机にして模擬戦略(タクティクス)――駒を使い陣地を取り合うボードゲームをしているところだった。


「勝てるわけないのですわぁ、そんな甘ったるい駒の動かし方で」


「っ……も、もう一戦!」


 余裕そうな嘲笑を浮かべるアザレアに、アキラは歯ぎしりをした。

 イツキは呆れ顔でため息をつく。


「――お前ら、いつまでやってるつもりだ?」


 窓の外は、気がつくと白み始めていた。一晩中起きていたことに、今更気づいたアザレアは、目を丸くする。


「あら、そんなに時間が経ちましたの?」


「ええ……完徹って」


 アキラも大きな窓を見上げて、唖然とする。


「いや……でも、もう一戦、」


「諦めが悪いのですわ、アキラ。一晩やって勝てないなら、これ以上やったって勝てないんですのよ」


 アキラの悔しそうな言葉に、アザレアはふんと鼻を鳴らしながらも――再びボードに駒を並べなおし始める。


「まだやるのか……」


 イツキはアザレアの手元を睨む。呆れ返った眼差しに、アザレアは薄く微笑んだ。


「朝礼まで、あと三時間はありますもの。まあ、アキラをいたぶるのは愉快でたまらないし」


「はあ?もう負けねーし!」


 アザレアは子供のようなアキラの物言いに苦笑する。再びゲームが始まる。

 ぼやけて白んだ光の中で、無言で睨み合うアキラとアザレアを、イツキはまたぼんやりと眺めることになった。

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