表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
120/476

120,

「何をお話してるのでしょうね」


 白い巨木の根本にいる天音とマザーの姿を眺めていた的場は、不意に隣から聞こえた声に視線を向ける。やわらかな金色の髪を指に巻き付けて弄ぶアザレアが、ちらりと的場を見上げていた。


「君なら、聞こえるんじゃないの?アザレア」


「聞こえないのですわぁ、これが。聞き耳を立てていること、完全にマザーにバレてしまっていますもの」


 アザレアは自分の耳たぶに触れて苦笑する。


「妨害を受けてしまっていて、全然音が拾えませんの。――相変わらず敏いお方」


 嘆息するアザレアを見て、的場も笑った。


「そっか。……聞かれたくない話なのかもね」


 天音とマザーが最後に会ったのは、的場が大元帥に就任する少し前だった。積もる話もあるのだろう。

 アザレアもうなずく。


「まあ、そうですわね。女の内緒話は詮索するほうが野暮というものですわぁ」


 扇子を広げ口元を隠すアザレア。彼女は、横目で的場を見上げた。


「ところで……ひとつお聞きしたいことがあるのですが。よろしいかしら?閣下(・・)


「いいよ〜」


 含みのある言葉に、鋭い視線。どこか尖ったアザレアの態度に、しかし的場は穏やかに微笑んだ。



「《血紅石》の見返りに、マザーの修繕(リペア)を選んだのは何故ですの?」



 アザレアは咎めるように目を眇める。扇子で表情は隠れていても、彼女の感情は如実に現れていた。


「この仕事は、最終的には修繕師(リペアラー)である天音先生のところにやってくる仕事ですわ。――それなのに何故、先生の要求の対価になるのかしら」


「ふふ……。別に、ここまで見越してマザーのリペアを先延ばしにしてたわけじゃ無いんだよ?」


 柔らかく微笑んだまま、的場は言葉を続ける。


「マザーのリペアの依頼が遅くなっちゃったのは、単純に忙しかったから。――どうせ女史も忙しいだろうと思ってたし」


「……どうだか。胡散臭いですわ、閣下の物言いは」


 ふんと鼻を鳴らしたアザレアに、的場は苦笑いした。


「本当だよ。――ただまあ、女史の性格的に、さ」


 的場は天音を見やる。――その目には優しさが溢れていた。


「女史って、上辺では上から目線で傲岸不遜!って感じを装ってるけど――実際はそうでもないじゃん?」


 アザレアはうなずくこともなく、ただじっと的場の言葉を聞いている。


「あんなふうに、当たり前って顔でとんでもない要求をしてくるけど……なんだかんだ言って、その要求の無茶苦茶さを理解してるから、ただで要求が受け入れられると罪悪感を感じちゃうんだよね〜」


「だから、対価を用意してあげる。というわけですの?」


 アザレアの言葉に、的場はうなずく。


「そ。――多分、女史は本当に《血紅石》をベースの備品を作るために使うんだろうから、実はただであげても良いんだけど……結局、女史が良しとしないだろうから」


 いずれにせよ、マザーのリペアは女史に頼む予定だったしね。


 ニヤッと笑う的場。アザレアは呆れたように肩をすくめた。


「何をわかったようなことを……それで先生を守ってるつもりですの?」


「ん?言ってくれるじゃん。これでも女史との付き合いは長いんだ。――それなりに、わかってるつもりではあるんだけど」


 薄ら笑いを浮かべる的場と、きつい物言いを隠すつもりもないアザレアの視線がぶつかる。アザレアはすぐに、ふいっとそっぽを向いた。


「ワタクシのほうが先生を長く知ってますもの。勘違いしないでなのですわ〜」


「――なんだ。さっきからやたら突っかかってくるな〜と思ったら、ヤキモチか」


 思わず吹き出す的場を、アザレアは冷え冷えと睨みつけた。


「なによ。たかだか二十年と少し生きただけの小童が、ワタクシの気持ちを『ヤキモチ』なんて言葉に集約しないで欲しいですわぁ」


 ――そう言って、淡くリップののった唇を尖らせるアザレアの態度は、まさしく『ヤキモチ』をやく者のそれだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ