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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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117,

境界線基地(ボーダー・ベース)の備品として、作りたいものがあるんです。硬度も純度も、できるだけ高いやつがいいです」


「――女史、自分が何言ってるか、わかってる?」


 的場は呆れたようにため息をつく。天音の後ろでは、アザレアもただただ驚きに目を見張っていて――唯一、瀬戸だけが困惑したような表情をしている。


「え?え……《血紅石》って、そんなに――ヤバイものなんですか?」


「《血紅石》は、《セイレント鉱》の変種鉱物です」


 青ざめる的場とアザレアに代わって、天音は淡々と説明する。



 ――《血紅石》


 《セイレント鉱》の亜種――つまりは金属でありながら、赤く透明感のある紅玉(ルビー)のような見た目をしていることとから、別名“大地の生き血”と呼ばれることもある鉱石。

 《セイレント鉱》特有の加工のしやすさに加え、最高硬度が12.5にもなる、非常に硬くしなやかであるといった特徴から、使い勝手の良い素材だが――


「《血紅石》は《セイレント鉱》の鉱脈から、極稀に採取される貴金属(レアアース)なんです」


「――“首都”の中ですら、滅多に出回らない素材なんだよ、あれ。わかって言ってる?」


 的場は顔をしかめてみせる。天音はうなずいた。


「もちろん。でも、首都大元帥は“首都”からの輸出に回っている《セイレント鉱》を管理してるから……融通、きくんじゃないかと思って」


「うっ……なんて狡猾なんだ。誰だよ、女史にこんな汚い手を教えたのは――」


 こめかみを揉んで唸る的場。瀬戸もことの重大さがわかってきたのか、天音を恐ろしいものを見るような表情で眺める。


「勿論、タダでいただこうなんて、微塵も思っていませんよ」


 天音は、ピンと右手の人差し指を立てる。蒼い目がきらっと光った。


「どうせ、私の給料を管理しているのも大元帥(あなた)なんですから――給料から天引きしていただいて構いませんよ?」


 こう見えて、結構稼いでいますから。


 ふんと鼻を鳴らした天音を、的場は思わずジトッと睨む。


「いや。流石に女史のお給料でも足りないよ?――仕事増やす?」


「うう……お金が足りなければ、致し方ないかと」


 天音は渋い顔をして、呻くような声を出す。的場は、意外そうに目を瞬かせた。


「そこまで《血紅石》が欲しいの?黒鉄でも《セイレント鉱》でも、金属ならいっぱいあるのに」


「――《血紅石》じゃないと、駄目なんです」


 的場から視線を逸して、天音は呟く。


「あれこれ計算して、設計図も引いて。その上で《血紅石》相当の金属じゃないと歯が立たないことがわかったんです」


 だから。と、天音は顔を上げる。真っ直ぐな視線が、的場を射抜いた。


「どうしても作りたいものがあるんです。――あの人を、助けてあげられるかもしれない」


 真剣な声色に、的場は彼女の真意を見透かすように、じっと見つめる。

 しばらく見つめ合った後、的場は腕を組んだ。


「う〜ん、どうしようかなぁ……。珍しい女史のおねだりだから、聞いてあげたいんだけど」


「――やっぱり、無理ですか?」


 急に不安げに、天音は視線を彷徨わせる。的場はニヤリと笑った。


「無理……と、本来なら言っちゃうところなんだけど。特別に良いよ」


「!――本当ですか!?」


 的場の言葉に、天音は思わず大声を上げる。的場は苦笑して、そんな彼女をなだめた。


「ただ、条件がひとつ。――してほしい仕事があるんだよね」


「……仕事?」


 優しく微笑む的場に、天音はぐっと身構える。的場は微笑んだまま、右手の人差し指を立てた。


「女史にとっては簡単な仕事だよ。――マザーの、修繕(リペア)をしてほしいんだ」

本文中の「硬度」は、鉱物の傷つきにくさを表すモース硬度をもとにして書いています。本来モース硬度は、ダイヤモンドの硬度である10までしか段階が無いのですが……ファンタジーなので。

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