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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
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116,

「あ!修繕師殿、お待ちしておりました〜」


 首都中枢塔の外門。行き交う人々の隙間から、ピョコピョコと飛び上がってこちらに手を振る、小さな人影が見えた。


「よかったぁ、ご到着に間に合って」


「わざわざ、ありがとうございます」


 その人物――瀬戸に歩み寄って、天音は軽く頭を下げる。瀬戸はニコッと笑った。


「いえ!――茜様、修繕師殿がいらっしゃるって聞かれて、とっても喜んでいらっしゃいましたよ?」


 外門から塔の入り口に続く道を、瀬戸を先頭にして歩き始める。


「『女史から会いたいなんて、珍しい!』って言って、お手紙を頂いてからずっとソワソワしてらっしゃいます」


「……別に、的場さんに会いたくて来たわけじゃ無いんですけど」


 天音は苦い顔をする。一歩下がったところを歩きながら、アザレアはクスクスと笑った。


「まあまあ、そうおっしゃらずに……」


 瀬戸は苦笑する。


「茜様は、修繕師殿のことが大好きなんですよ」


 昇降機(エレベーター)に乗り込みながら、瀬戸は天音を振り返る。その笑顔に、天音は面倒そうに目を細めた。


「私は、あの人のこと好きじゃないですけど……」




<><><>




「いらっしゃ〜い!女史〜、会いたかったよ〜!」


「……ぅわ」


 執務室の重い扉を開けた瞬間、飛びついてきた背の高い人影を、天音は飛び退って避ける。


「え、なんで避けるの?」


「――何故、避けられないと思いましたか」


 生ゴミでも見るような顔で、天音はこの部屋の主を眺める。的場は首を傾げた。


「親しい間柄において、ハグは普通の挨拶だよ?」


「そもそもが、親しい間柄では無いんですよ別に。――気持ち悪い」


 天音のはっきりとした物言いに、的場も流石に眉を下げる。


「ええ……そ、んなこと無いでしょ」


 的場は困惑したように視線を彷徨わせると、天音の後ろにすまし顔で立っているアザレアに目を留める。


「ねえ、アザレア。流石に気持ち悪いは言いすぎじゃあ……」


「お言葉ですが、大元帥閣下?」


 アザレアに同意を求めようとした的場は、彼女の芝居がかった口調に口を閉じる。アザレアは、どこからともなく大きな扇子を取り出すと、バサリと広げて口元にあてがった。


「二十五歳のゴリゴリの成人男性が、妹でもないうら若き乙女をハグする絵面なんて……考えるだけで吐き気がしますわぁ〜」


 涼しい顔でそう吐き捨てるアザレア。的場はガクッとうなだれた。


「味方は誰もいないのか……」


「うう……そう言われると、確かに気持ちわ――。いえっ、ぼ、僕は味方ですからね!?」


 冷ややかな視線を向ける女子ふたりを見て、瀬戸は言いかけた言葉を飲み込むと、的場の背中を撫でる。


 天音はため息をついた。


「違うんですよ。的場さんを苛めるために、こんなとこまで来たわけじゃ無いんですよ」


 ちゃっかり首都中枢塔を“こんなとこ”呼ばわりした天音だったが、もはや誰も止める者はいない。天音は的場を見つめた。


「お手紙にも書いたとおり、」


「欲しいものがあるんでしょ?」


 的場は顔を上げる。しょんぼりとした表情はすっかり消えて、いつものような快活な微笑みが顔を出した。


「女史は物欲が無いから、びっくりしたよ〜。さあさあ、何が欲しいの?女史が欲しいものならなんでも良いよ!」


 笑顔で胸を張る的場。天音は無表情のままうなずいた。



「では、お言葉に甘えて。――《血紅石》が欲しいんです。できれば、インゴット単位で」



「そうか!女史は《血紅石》が……へ!?《血紅石》!?」


 うなずきかけた的場は、思わず目を剥く。しかし、天音は飄々と先を続けた。

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