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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
115/476

115,

「――以上、本日の業務分担です。軍議は終了しますが、なにかありますか?」


 ローレンスの声が、しんと静まったロビーに響く。集まった“兵器”たちは、互いに顔を見合わせた。


 巨大な異形のアーティファクトの侵攻を受けて、見回り班の編成を変えた翌日。“兵器”全員を集めた軍議が行われていた。


「無いならこれで解散。C班は、五分後に第一通用口(ハッチ)に集合」


「「了解」」


 C班メンバーは、答えるやいなや走り去っていく。その姿を見送って、ローレンスは手に持った紙の束を、慌ただしくめくる。


 ふと、そんな彼の後ろから、小さな人影が顔を覗かせた。


「ローレンスさん、」


「!――びっくりした、先生ですか」


 ローレンスに話しかけたのは、いつものチュニックに外套を羽織った天音だった。ローレンスは目を丸くするが、すぐに相好を崩す。


「どうしました?」


「忙しいところ申し訳ないんですけど……外出したくて」


 天音は眉を下げる。ローレンスはパチパチと瞬きした。


「外出?良いですよ。護衛ですよね。――珍しいですね、先生から言ってくれるなんて」


 ローレンスは不思議そうにそう言って、すぐに微笑む。


「ちゃんと言えてえらいです。――成長しましたね」


「こ、子ども扱いしないでください!」


 天音の白い頬が、微かに桃色に染まる。蒼い目が、ジトッとローレンスを睨んだ。


「――勝手に出かけると迷惑がかかるということは理解したので。怒られると怖いし」


「ふ……それを成長と言うんですよ」


 ふてくされた天音を優しい眼差しで眺めて、ローレンスは手に持っている紙を見る。


「今日は……ああ、アザレアが非番ですよ。彼女に頼むのが良いかと」


「わかりました。――昼までには戻ります。多分」


 言葉の最後を濁す天音に、ローレンスはクスクスと笑う。


「連絡を入れてくれれば、ちょっと遅くなったくらいで怒りませんよ。――要件は聞きませんが、せっかく出かけるんですから。楽しんできてください」


「――ありがとう、ございます」


 ローレンスを上目遣いで見て、天音は踵を返す。


 その後ろ姿を見送るローレンスの肩を、誰かがたたいた。


「珍しいなぁ。お前が先生の外出を止めないなんて」


「ゲンジ……。別に、先生の行動を制限したいわけじゃないからな」


 ローレンスは、心外だ、と言わんばかりにムスッと顔をしかめると、肩に置かれたゲンジの手を払いのける。


「ちゃんと報告して、護衛をつけてくれれば止める理由もないし……前のことで、頭ごなしに外出を禁止するのはよくないことも学んだ」


「ほう?ちゃんと『成長している』わけだ」


 ニヤッと笑うゲンジに、ローレンスは辟易したようにため息をつく。


「うるさい。――それに、先生だってああ見えて……年頃の女の子なわけだし。やりたいことだっていっぱいあるだろうから――ここに縛り付けるのも、あれだろ?」


「!?――ガーッハッハッハ!違いないなぁ……」


 ローレンスの物言いに、ゲンジは大声で笑うと、ローレンスの背中をバシバシと叩く。


「いっ!」


「ハッハッハッハッ……。しかしなぁ、ローレン。その言い方は、まるで父親かなにかだなぁ」


「はあ?んなわけないだろ!?」


 からかうゲンジに、ローレンスは思わず大声を上げる。

 境界線基地(ボーダー・ベース)は、今日も賑やかだった。




<><><>




「――それで、今日はどこに行くんですの?」


 可愛らしいレースの日傘をくるくると回しながら、アザレアは首を傾げた。

 石畳の上で、並んだ足音が軽やかに進んでいく。


「首都中枢塔です。欲しいものがあって……」


「欲しい、もの?」


 アザレアはますます首を傾げる。天音はそれ以上は答えずに、ポリティクス・ツリーに向かう、ゆるい坂道を上がっていった。

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