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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
114/476

114,

「どうしたものかな……」


 ベッド脇の真っ白な壁を見つめて、天音は独りごちる。――何度も何度も、イツキの表情が脳裏に蘇ってくる。



 ――『やめてくれ。――これ以上、味方が死ぬのは見たくない』



「今まで、どれだけ……」


 自分の力で、人が死ぬのを見てきたのだろうか。どれだけ怖い思いをしてきたのだろうか。孤独に苛まれ、挙句の果てに、その手に触れることができる唯一の人間ですら拒絶してしまうほどに。


 天音はごろりと仰向けになると、手を高くかかげて手のひらを見つめる。


「イツキさんの手、大きかったなぁ」


 静かに手を握る。

 両手で握っても包み込みきれない、大きくて無骨な手。きっと、あの大きな手で沢山の人を殺して、


 ――沢山の人を、守ってきたんだ。


 ひんやりと無機質な肌の質感を思い出しながら、天音はため息をついた。


「せめて、《暴走》を未然に防ぐことができれば……」


 イツキが独りになることしかできないのは、“精霊の加護(プロテクション)”――もっと言えば、《暴走》が起こって周りのもの全てを殺してしまうからだ。それさえなければ、《暴走》が収まるまでの間を、独りで苦しまなくて良くなる。


「……ひとりは、怖いよ」


 “孤独”というものがどれだけ恐ろしいことなのか。

 自分のせいで誰かが死ぬということが、どれだけ怖いことか。


 天音はそのことを、身をもって知っている。


 ――なにか無いのか?


 “精霊の加護(プロテクション)”を制御し、《暴走》を防ぐことができるなにか……


 天音は、ズキズキと痛む頭で、ひたすらに考え続ける。


「もう、あんな顔見たくない……」


 酷く怯えたような、なにかを諦めてしまったような。

 過去の自分と重なるところがあるからこそ……天音は、考えることをやめることができなかった。



「――《暴走》しないためには、プロテクションを使わないことが一番」


 あるいは、プロテクションの使用量を極限まで減らすか。

 “兵器”にとって便利な能力であるからこそ、限界があるという点がネックだった。


「根本的に、使える『エネルギー』の量を増やせればいい。……どうやって?できないそんなこと」


 ぼそぼそと、考えが口をついて出る。誰も聞くことのないその言葉たちは、結局は完結されないまま転がっていく。


「――なにかが足りない」


 考え方に、なにかが足りないんだ。『エネルギー』を増やすことを考えるんじゃ無いとしたら……



「少ない『エネルギー』を――効率的に使う?」



 ぼんやりと浮かんだその考えを、天音は声に出してみる。


 ――例えば、少ない力で生み出したプロテクションを……増幅させる(・・・・・)とか、



「これだっ!――いっつ……」



 突然のひらめき。天音は慌てて飛び起きて――激しい頭の痛みに顔をしかめる。


「うぅ……」


 頭を抑えて小さく呻きながら、パーテーションの影からちらりと覗く、ごちゃついたローテーブルの上を見つめる。


「プロテクションを媒介して……さらには、威力を増幅させる物質」


 開け放しの窓から風が吹き込んできて、モスグリーンのカーテンがはだける。その隙間から差し込んだ昼間の日差しを、


 ローテーブルの上に転がった――金色のナイフが鮮やかに反射した。


「……やっと見つかった。使い道」


 天音の蒼い瞳が、獲物を見つけた猫のように光る。桃色の唇の端が、無意識のうちに吊り上がる。


 ――ほぼ感覚で覚えた、鍛冶(スミス)の技術を見せるときだ




<><><>




 ――『遺物境界線(レリックボーダー)』の外側では、この時期にしては珍しく、砂嵐が吹き荒れていた。



「……“使者”が死んだ、か」



 そんな嵐をものともせず、荒野の砂を踏みしめてボーダーを見上げる人影がひとつ。


「見つけたのか、“ギフト”を」


 寒色の口紅(ルージュ)をひいた、薄い唇が弧を描く。

 砂が風に巻き上げられて、視界がけぶる。次に砂が落ちたときには――


 人影など、どこにもなかった。

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