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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
110/476

110,

 アキラはぐっと拳を握る。その表情は苦しげで――どこか悔しさが滲んでいた。


「初めて、あいつが《暴走》してるのを見たのは――“大戦”末期の一番戦いが激しかった時期です」


 金色の目がすっと細まる。


「上層部からの司令で、敵軍の陣地に特攻したんです。――今思うと、ほんっとバカみたいな話なんすけど。

 不利な条件下で、イツキのプロテクションに限界が来たみたいで、交戦の只中で《暴走》が起こって……。俺は離れたところにいたから良かったものの、イツキの《死を運ぶ風(ウィンド・オブ・デス)》は膨れ上がって、敵も味方も関係なく全て灰にしたんです。――その後、しばらくは誰もあいつには近づけなくて」


「――さっきのも、『エネルギー』の余剰から来たプロテクションの暴発。となるとやはり、イツキさんの意思とは関係なく引き起こされる現象なんですね」


 天音の呟きに、アキラは目を瞑る。


「無意識に、敵味方の区別すら無く起こるっていうのがキツイところで。あいつが《暴走》を起こしたのは、その一回だけだったんですけど――表には見せないだけで、それだけプロテクションを使うっていうのは苦しいから、いつもは《暴走》するような無茶は絶対にしないんです」


 でも……

 アキラは唇を噛む。


「仲間を巻き込んで死なせたっていうことに関しては、相当に後悔してるみたいで。じゃあ周りを巻き込まなければいいだろう、っていう……あいつはそういう、極端な考え方しかできないから、」


「だから……味方を全員退避させて、あんな無理を!?」


 ゲンジが目を剥く。ローレンスも、ただ呆然と立ち尽くす。


「――あんなの、ただのバカの所業だ。……そこまでやっても、あいつは結局、独りで苦しむのに……っ」


 アキラは荒々しい口調で吐き捨てる。伏せられたその表情は、引き結ばれた口元をわずかに垣間見ることしかできない。


 ロビーを、再び沈黙が支配した。

 わずかに夜が明け始めたのだろう。嵌め殺しの窓からは、薄ぼんやりとした光が入ってくる。



「イツキさんがどこにいるか、知ってる人はいませんか?」



 不意に、天音の声がロビーに響く。アキラは思わず顔を上げた。


「――へ?」


「《暴走》すると身体に負担がかかる。ということは、メンテナンスが必要ということです」


 天音はそう言うと、足元に置いたままの大きな工具箱に手をかける。その表情は、いつもと寸分違わず冷静だった。


「――先生。話、聞いてました?」


 アキラがわけが分からなそうに首を傾げる。天音は首肯した。


「はい」


「今のイツキに近づくと、死ぬんですよ?」


「私にはイツキさんのプロテクションは効きませんよ?」


 飄々とそう言ってのける天音に、ローレンスが慌てたように首を横に振る。


「先生、それは流石に……。今の話を聞いている限りでは、どう考えても《暴走》はプロテクションの特殊(イレギュラー)な状態です。先生のプロテクションが効かないかもしれないんですよ!?」


 ローレンスの言葉に、ゲンジが息を呑む。しかし、天音は静かに工具箱を持ち上げた。


「イツキさんは、どこにいますか?」


「先生っ……!」


 アキラは、思わず天音を睨みつける。


「本気で、どうなるかわからないんっすよ?先生の命も心配だし――こんなこと、言うべきじゃ無いかもしれないけど……イツキがまた誰かを殺してしまって、苦しむのを見たくない」


 ――イツキを、また“人殺し”にするのか


 アキラはぐっと眉根を寄せる。

 『死神』なぞと呼ばれて、誰からも怖がられて嫌われる。無表情で無愛想な男。

 でも



 ――『俺が仲間(・・)を殺す前に』



 本当は、他人を守ることをやめない、たまらなくバカで優しい男で――アキラにとっては、不必要に傷ついて欲しくない、かけがえのない親友で。

 だから尚更、天音をイツキのもとに行かせたくなかった。

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