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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
106/476

106,

「……っふ、」


 ――流石に、きついかな……


 天音は人知れず息をつく。額にじっとりと汗が滲んだ。


『グァ……』


 異形は、動きを止めたままうめき声を上げる。天音には段々と“精霊の加護(プロテクション)”の発動によって体力が削られていくのがわかる。


「……先生」


 それでも、すらりと背筋を伸ばして異形のアーティファクトに立ち向かう天音を、ローレンスは呆然と見つめる。


 すると――


『トン』


「っ!?」


 突然、軽やかな足音とともに、天音の視界を黒いマントが覆う。思わず異形から視線を外し見上げると――傾いた見張り台の鉄柵の上に、イツキがしゃがんでこちらを見下ろしていた。


「イツキ!?」


 ローレンスが驚愕の声を上げる。イツキは彼を見返した。


「今すぐベースの中に避難しろ。ローレンス」


「……は?なんで」


 イツキの言葉にローレンスは怪訝そうな顔をする。しかし、イツキは有無を言わせない声色で続ける。


「逃げなきゃ死ぬからだ。――地上で戦ってたやつらは、全員もう退避している」


 天音はちらりと地上を見下ろす。イツキの言葉通り、そこには敵以外の人影は無く、敵影はすべて天音の力によってぴくりとも動かなかった。

 紅い瞳が真剣な光をたたえてローレンスを見つめる。そんなイツキに気圧されて、ローレンスはうなずき天音を見る。


「っ……、わかった。じゃあ、先生も一緒に……」


修繕師(こいつ)は置いてけ」


 しかし、イツキは鉄柵から飛び降りてそう言う。


「はあ!?」


 ローレンスはイツキを睨みつけた。


「危険なんだろ?なら尚更先生を退避させないと、」


「こいつにはここで敵を止めておいてもらわないといけないから。――別に危害が及ぶようなことはしない」


 早く行け。


 イツキはローレンスを促す。ローレンスは困惑したようにイツキと天音を見比べていたが、やがてふたりに背を向けた。


「先生に何かあったら……ただじゃおかない」


「わかってる」


 ベース内の階段を駆け下りていく音が遠くなる。イツキは天音の隣に並んだ。


「――というわけだ。このデカブツをできるだけ長く引き止めておいてくれ」


「一体、何をするつもりですか?」


 天音は、ちらりとイツキを横目で見上げる。彼もまた、天音を横目で見ていた。


「お前が止めている間に、強引にプロテクションで灰にする。それだけ」


「それだけって……」


 天音は困惑したようにため息をつく。イツキはふっと口の端を吊り上げた。


「じゃあ、任せた」


 それだけ言うと、イツキは異形に向かって飛び上がる。

 彼の手が異形に触れた、その瞬間



『ヤメロ!ヤメロッ……グアァァァ』



 凄まじい悲鳴が頭に直に響く。


「っ!?」


 抑えつけを振りほどこうと藻掻くような衝撃。

 天音はプロテクションによる拘束が緩むのを感じて、慌てて力を上乗せする。


「っは……ま、ずい」


 体力を吸い取られる感覚に、意識がぼやける。ガクッと膝から力が抜けそうになるのをこらえて、必死に意識をつなぎとめる。


『グギャアァァァァァァッ!アアアアアアアアアアアアアッ!』


「っ……うるせぇっ!」


 ――激しく消耗しているのは、イツキもまた同じだった。


 押し返されるような、死への激しい恐怖と反発。イツキはぐっと手のひらを押し付ける。


 ――コワイ


 ――タスケテ


 ――死ニタクナイ


 感情に似た電気信号。手にとるようにわかる叫び声に――イツキは、思わずそっと目を閉じた。

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