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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
105/476

105,

「――止まりなさい」


 外套の裾と、長い白銀の髪がひらりと翻る。異形はそんな彼女を見た(・・)


『“ギフト”……“ギフト”ッ……』


「煩い」


 天音はそう言うと、ゆっくりと右手を上げる。


「いい加減にしろ。ここはお前が好きにしていい場所じゃない」


 低く鋭い、天音の声が響き渡る。ローレンスが呆然と見つめるが、彼女はそれにすら気づくこともなく、白く細い指で異形をひたりと指差す。


 天音は、すうっと息を吸い込んだ。



『私と、私の大切なものに仇なす者。これは“命令”だ。……今すぐその動きを止めろ!』



 膨大な圧力を秘めた叫び。力強く見開かれた大きな蒼色の瞳。弾けるように空気が揺れ動く。


 その瞬間……異形はピタリと動きを止めた。



<><><>



「……止まった?」


 アキラが上を見上げて呟く。その声に、珍しく息を切らしたイツキはのろのろと顔を上げた。


 見れば異形だけでなく、敵のアーティファクトたちまでもがその動きを止めている。


「あれは……」


 イツキは視線を彷徨わせて――異形の目の前、傾いた見張り台の上に小さな人影を見つける。


 ――修繕師……


 あんなに小さな姿なのに、揺れる白銀の髪も、強い光をたたえた蒼色の目もはっきりと見える。

 “同調”とでも言うのだろうか。彼女が“精霊の加護(プロテクション)”を使っているのが、空気を通して伝わってきた。


「あいつが動きを止めている……」


「先生!?」


 アキラは目を丸くする。他の“兵器”たちも天音に気づいたのか、驚きの声をあげている。

 彼女の姿を見つめていたイツキは、ふらりと一歩前に踏み出した。


「――ゲンジ、」


「イツキ……?」


 アキラの横を通り過ぎて、イツキは前に立っているゲンジに声をかける。初めてイツキの口から自らの名前を聞いたゲンジは、目を見張りながらも返事をする。


「どうした」


「――『遺物境界線(レリックボーダー)』の外側にいる“兵器”を、全員ボーダーの内側に退避させてくれ」


 イツキはゲンジを見上げる。


「いいが……どうするつもりなんだ、お前」


 怪訝な表情を浮かべるゲンジ。イツキは異形を見上げる。


「動きが止まってるのが相手なら、“精霊の加護(プロテクション)”でゴリ押せるから……俺がアレを殺る」


「待てイツキ」


 しかし、イツキを止めたのはアキラだった。イツキは彼をちらりと見やる。


「他のやつらを退避ってお前……まさか《暴走》するまでプロテクションを使うつもりなのか?」


 アキラの表情は険しい。


「――《暴走》?」


 ゲンジも不穏な言葉の響きに、眉を寄せた。しかし、イツキは表情を変えない。


「だったらなんだ。今はそんなことにかまってる暇は無いだろう……?」


「そんなことってなんだよ!?あれ(・・)で苦しむのはお前だろ?」


 アキラは声を荒らげる。周りの“兵器”たちも緊張感の漂う空気に、口をつぐむことしかできない。


 しかし――


「……そんなこと、だ。早く退避してくれ。……俺が仲間(・・)を殺す前に」


「っ……」


 アキラを振り返ったイツキは――うっすらと微笑んでいた。ほんの僅かに弧を描く薄い唇を見て、アキラはぐっと歯を食いしばる。


「将軍……マジで、全員ボーダーまで逃げたほうがいい」


「アキラ……」


 苦しげに表情を歪めながらもそう言うアキラを、ゲンジは驚いたように見つめる。しかし、すぐに周りの“兵器”たちを見回した。


「全員後退!怪我人も一人残らずボーダー内まで退避しろっ」


 “兵器”たちが動き始めたのを確認して、ゲンジはイツキを見下ろす。


「これでいいか?」


「ああ。後は任せろ」


 それだけ言うと、イツキは異形に向かって歩いていく。


「……バカ野郎」


 ――その後ろ姿を見送って、アキラはぐっと唇を噛むと、他の“兵器”たちとともに戦場を後にした。

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