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機械仕掛けの英雄譚  作者: 十六夜 秋斗
Chapter4,『死神の旋律』
103/476

103,

「――状況は?」


「巫剣先生」


 『遺物境界線(レリックボーダー)』の外側に張り出した見張り台。ローレンスが振り返ると、息を切らした天音が駆け寄ってきた。


「正直、危ないです。もう既に怪我人の報告も出てます」


「……怪我人を退避させることは?」


 天音はぎゅっと眉根を寄せる。ローレンスは苦しげに表情を歪めて、首を横に振った。


「全員でかかっても人手が足りません。なにせ、」


 アレですから。


 ローレンスが指さした先には、あの巨大異形のアーティファクトがいた。天音はぐっと目を凝らす。


「……初めて見ました。一体、どこの?」


「先生でもご存知ないですか。僕らにもさっぱり心当たりがなくて」


 その言葉に、天音はもう一度異形を見つめる。


「――人工筋。南方型の“旧型機”かな……。でも腕のパーツは北方製の……?」


 ぶつぶつと呟く天音を一瞥して、ローレンスは(ボーダー)ギリギリのところまで迫ってきているアーティファクトたちに向かって発砲する。


「南側、敵が抜けてきてる。陣形を立て直せ」


『……これ以上は無理です。人員が足りませんっ』


 ローレンスの横に置かれている大型無線機から、焦燥にまみれた応答が聞こえてくる。ローレンスは、珍しく焦ったように舌打ちした。


「せめて……あのデカブツにイツキの“精霊の加護(プロテクション)”が効いていれば……」


「え……《死を運ぶ風(ウィンド・オブ・デス)》が効かなかったんですか!?」


 天音は驚愕に大きな声を出す。ローレンスは天音には目線を向けずにうなずいた。


「効かなかったというか……効きにくかったみたいで。どうしてか理由はわかりませんが」


 ローレンスは口を閉じると、再び敵を撃つ。重々しいリロードの音だけが響いた。

 天音は、再び異形に目を向ける。


 ところどころ人工皮膚(スキン)が剥がれ、剥き出しになった肉と金属部品。頭が無く、爛れたように崩れかかった首の断面。


 ――酷い……


 敵とわかっていても、その痛々しさに天音は表情を歪めた。

 悪い癖だ。いくら修繕師(リペアラー)でも、何でもかんでも直せるわけじゃないのに……。


 天音は、無意識のうちに両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。


 その時、



『――“ギフト”?』



「!?」


 不意に、天音の耳に声が響く。甲高い――金属音のような声。

 天音ははっと顔を上げる。


「何……?誰、」


「い、今のは……」


 きょろきょろと周りを見回す天音とローレンス。



『ミツケタ!“ギフト”ダ!』



 再び聞こえる高い声。それが聞こえた次の瞬間、無線機から野太いゲンジの声が聞こえてくる。


『――ローレン!あのデカブツがそっちに向かって歩き始めたっ!……まずい、止められないっ』


「!?――まじかよっ、」


 ゲンジの言葉の通り、異形のアーティファクトは真っ直ぐに天音とローレンスがいる見張り台に向かってくる。ローレンスは天音を見る。


「先生、下がってください。……万一、何かあったらすぐにベースの奥へ」


「っ……わかり、ました」


 天音が下がったのを確認して、ローレンスはライフルの照準を異形に合わせる。


『タァーンッ!!』


 鋭い銃声を皮切りに、ライフルを残弾いっぱいまで乱射する。しかし、異形は歩みを止めない。


「チッ、くそ……」


 悪態をつきながら、ローレンスは空のマガジンを落とす。

 天音はただ呆然とその光景を眺めることしかできなかった。

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