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※ここからしばらく少しグロめの描写が続きます。
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「何なんだ……いったい」
――そこにいたのは、今まで見たこともないようなアーティファクトだった。
胴から四肢が生え、二足歩行をしているところまでは人間とほぼ変わらない。しかし、その身長は軽く五十メートルを超えていて、腰を折りふらふらと歩く様子は、どこまでも異質だった。
さらに、
「あいつ……首がない」
アキラの言葉の通り、本来頭があるはずの場所には何もなく、千切られたような断面が覗く首の一部が残っているだけだった。
『ミツケタ。ドコ……ドコニイルノ……?』
「なんなんだよ……あんなの、見たこと無いぞ」
アキラは呆然と呟く。イツキは目を細めた。
「……」
第一通用口の前に立って、ふたりは近づいてくる巨大な異形のアーティファクトと、その周辺に群がる軍勢を見つめる。
不意に、イツキが両手の手袋を脱いだ。
「援軍が来るまで、とりあえずあのデカブツから叩く」
「了解。俺はとにかく足止めだな」
イツキの言葉にアキラはうなずくと、腰に吊るした自分の“本体”を引き抜く。暗闇にもなお、長い刀身がオレンジ色の光を放った。
「行くぞ」
イツキはそう言うやいなや走り始める。その後ろで、アキラも戦いを始めた。
――上からだな……
イツキはアーティファクトの大群に一気に突っ込む。周りのアーティファクトたちは一斉にイツキに攻撃を開始するが、どの攻撃も標的に当たる前に躱され、逆に攻撃の主が灰になって死んでいく。
初めて『再構築製造機』を相手にしたときと同じ要領で、イツキは助走をつけると、空高く飛び上がる。
「……消えろ」
そのまま、首の断面のど真ん中に拳を叩き込む。
剥き出しの人工筋肉に手がめり込む感覚が、直に伝わってくる。
『グギャアァァァァァァッ……』
湿った叫び声。断末魔になるそれを、イツキは異形の肩の上でただ聞いていた。もうすぐ灰化が始まる
――筈だった
『イ……ヤダ、』
不快な金属音のような声。もう二度と聞こえないはずだった音に、イツキは目を見開く。
『死ニタク、ナイ。ヤダ……イヤダッ!』
「っ……こいつ、」
――灰化が始まらない……
イツキは、思わず飛び退ろうとする。しかし、
『グギャアァァァァァァッ……』
再び叫んだ異形が体を激しく捩り、イツキはその肩から振り落とされた。
『ドスッ!』
激しい音とともに、イツキは地面に投げ出される。
「イツキっ!?」
ハッチの前で敵の侵入を防いでいたアキラは、鋭く叫ぶとイツキに走り寄ろうとした。
「ぐはっ……来んな、アキラ!」
苦しげなうめき声をあげながらも、イツキは立ち上がってアキラに加勢する。
「どういう……。まさか、お前のプロテクションが効かなかったのか!?」
「ふう……っ。正確には、“死ぬほど効きにくかった”だけどな」
荒い息をつきながら、イツキは呟く。紅い瞳がすっと細められた。
「まさか……あいつ、」
「イツキ、アキラ!」
アキラが何事かをいいかけた時、ふたりの後ろから声と足音が聞こえてくる。
振り返ると、ゲンジとアザレアを先頭に“兵器”たちが走ってくるところだった。
「待たせたな。……って、なんだありゃぁ」
「あれは……アーティファクトですの?」
異形を見上げてゲンジとアザレアが息を呑む。イツキが苦々しげに言う。
「俺のプロテクションが効かない。……厳しいかもしれないが、ひとまず雑魚どもを片付けるのが先みたいだ」
「!?……イツキの、プロテクションが、」
「効かない……と」
ゲンジは呆然と呟いたが、すぐに表情を引き締め後ろの隊を見回す。
「とにかく、全軍突撃!一匹たりとも街に入れるなっ」
「「ハイッ!」」
その言葉に、“兵器”たちは一斉に走り始めた。