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「字面のままの能力ですが、特に機械、アーティファクトなんかは言うことを聞かせやすいです。今私は、無意識下であなたに――正確にはあなたのプロテクションに『私を殺すな』と命令しました。――私にもあなたにも自覚はありませんが。」
天音は、イツキを見上げて淡々と説明する。
「……それはまた……俺に似たりよったりのチート能力だな」
もういちいち驚くことを諦めたのか、イツキはそう呟いた。天音が微かに微笑む。
「そうですね……。アーティファクトには、あなたと同じように触れるだけで危険なものや、そもそも意思疎通が出来ないものもいます。そういうアーティファクトの修繕を生業とする私にとって、このプロテクションはとっても有能なんです」
そこで、「ああ、思い出した」と天音は突然、手を叩く。
「あなたの修繕でしたね。こっちへ」
彼女はイツキを、ローテーブルに備え付けられた古風なソファーに連れて行く。イツキを座らせると、彼女は壁に取り付けられた、ごちゃごちゃした棚の中を探る。
「とりあえず、損傷の様子をみたいですね――。服を脱いでください」
「……は?」
首を傾げるイツキを振り向きもせず、棚を漁りながら天音はくぐもった声で言う。
「あなた、『第一次機械戦争』以前に製造された“旧型機”でしょう?」
「……だから?」
棚から金属製の大きな工具箱を引っ張り出して、天音はようやくイツキの方を振り返る。
「“旧型機”は、それ以降のアーティファクトと違って、現身から人間の手で作られています。だから損傷を受けた場合、傷は現身から本体――あなたの場合はタリスマンですね……、に反映されます。今多くあるアーティファクトに比べると、少しイレギュラーなんですけど……」
だから現身を修繕する必要があります。と天音はイツキの隣に腰を下ろしながら言った。
「……そうか」
イツキはその説明に納得したのか、渋々マントを脱ぎ始める。
「あ、下はいいですから」
「言われなくても……分かっている」
イツキは横目で天音を睨みつけると手袋を外し、中に着ていた黒いシャツのボタンを外していく。
一方、天音はといえばそんなこと全く気にせず、金属の箱の中から工具をいくつか取り出していた。
「ふふ――。“旧型機”の……それも現身のリペアはあまりやったこと無いので……いいですね、楽しみです」
天音は鈍く輝く真鍮製の工具を持って目を細める。――さながら、ニヤリと微笑むように。その様子に、イツキは気味の悪いモノを見るかのように頬を引きつらせた。
巫剣 天音 (16)
種族:人間
プロテクション:《神聖な贈り物》あらゆるものに自らの願いを叶えさせる能力。
人間でありながら『精霊の加護』を持つ少女。その能力と『修繕』の技術を用いて、首都で唯一の『指定修繕師』をしている。
“兵器”たちからは腕のいいリペアラーであることが称賛され、慕われている。