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2話 少女を治癒する

「これからどうすっかな……」


 宿舎を後にした俺は、行く当てもなくフラフラとさまよっていた。

 町に留まっていても『無能の回復術師だ』と蔑みの視線を向けられているように感じてしまうため、人目のつかないところに行きたかった。


 大通りを外れて脇道に入り、町からも外れて森へと進む。土を踏みしめながら黙々と木々の間を歩いていき、川にたどり着いたところで足を止めた。


「冒険者になったのが間違いだったのかなぁ……」


 幼い頃から夢見ていた職業、冒険者。

 魔物を討伐しながら世界を旅するのは、多くの子供たちが憧れる理想の未来だ。

 ときにかっこよく敵を切り払い、ときに勇ましく仲間を守り、ときに強大な魔法で大群を殲滅する。

 強い自分を想像するだけでも気持ちが高ぶり、その心持ちのまま冒険者になる。


 実際、冒険者となるだけなら簡単だった。

 ギルドに行って名前を登録すれば、最下層ランクには誰でもなれる。ランクを上げるためには昇格試験などをクリアしなければならないが、たとえ秀でた能力が無くとも冒険者にはなれる。


「だからこんな俺でもなれたんだけど、さ」


 俺は別段、優れた能力などなにも持っていない。力が強いわけでも、武器の扱いが上手いわけでも、攻撃魔法を使えるわけでもない。

 唯一治癒魔法だけは使えるが、ポーションなどの回復薬が安価で流通しだした現代では、回復術師は存在価値が危ぶまれていた。

 そこへきてさらにポーションの自動使用を行える魔法も開発されたものだから、本格的に不要な存在となってしまった。

 

 パーティーを追放されたのは当然だ。


「それでもこれまで同行させてくれただけ、幸運だったんだよな。幼い頃からの夢の続きを見せてもらっただけでも感謝すべきなのか。これからは普通に働いて……」


 生きていこう。そう思った時に、何かが聞こえた気がした。


「ん?」


 人の悲鳴のような声が遠くから聞こえた気がするが、耳を澄ましても続く声は聞こえない。川のせせらぎや木の葉がそよ風で揺れる音ばかりが耳に届く。


 気のせいだろうか。そう考え始めたところで、川の上流から何かが流れてきた。


「!」


 徐々に近づいてくるそれは、人間だ。意識が無いのか泳ぐ素振りも見せず、無抵抗に流されて来ている。


「マジかよ!」


 俺は慌てて川に飛び込む。水深はふくらはぎほどまでしかないため、足を取られる危険性はそこまで高くはない。


「大丈夫ですか!?」


 駆け寄って捕まえ、腰に手を回して抱え起こす。

 流れてきたのは、白い髪を長く伸ばした冒険者風の少女だった。

 

 歳は俺と同い年ぐらいだろうか。だとすれば18歳前後のはずだが、年齢の割にはずいぶんと良い装備を身に付けている。それなりに稼いでいる高ランクの冒険者だろうか。籠手などはそれなりに使い込まれた傷跡もある。

 

「返事はできますか!」

「…………」


 話しかけても返事は無い。やはり意識が無いようだ。

 いつまでも川の中にいるわけにもいかないので、引き返して木陰へと少女を運ぶ。

 木の幹に寄りかからせると、急に顔をしかめ始めた。


「うぅ……っ」


 険しい表情で苦鳴をもらし、ガタガタと体を震えさせる。

 まるで悪夢にうなされているようだ。


「悪夢……いや、これは!」


 俺は少女の首筋が異様に黒くなっているのに気がついた。これは死霊系のモンスターがかけた呪いだ。

 おそらくはこの呪いによって苦しめられているのだろう。一刻も早く助けなくては。


 俺は黒くなっている首筋に右手をかざす。


回復ヒール


 ぽぅ、と淡い光が灯り、黒い影を消していく。そのまま首筋についていた切り傷も治癒する。

 死霊系モンスターが対象者に呪いをかける場合は、かけたい場所に傷を作らなければならない。その傷を目印にして呪うのがやつらのやり方だ。


 黒い影と切り傷が完全に無くなる。

 すると少女は声を漏らした。


「う……、ここは」

「ああ、気がついたみたいだね」

「え、あれ……」


 少女は目を開ける。ぼーっとした眼差しで俺を見ていたが、やがてはっとしたように何かに気がついて首筋に手を当てた。


「呪いが解かれている。それに傷も無い」

「死霊系のモンスターにやられたんだよね。それなら完治したからもう大丈夫だよ」

「あなたが助けてくださったのですね、感謝します」

「いえいえ」


 受け答えははっきりしているし、呪い以外に目立った外傷も無い。もう大丈夫そうだ。

 さてこれからどうしようか。このまま放置するわけにもいかないだろうから町まで送ろうか。などと考えていると、少女が声をかけてきた。


「あの、あなたは呪術師だろうか?」

「いや違うけど、なんで?」

「お気づきの通り、私は死霊に呪いをかけられた。呪いの解除方法は一般的にはあまり知られていないため、領分の同じ呪術師だから解除できたのだと思ったのだ。しかし違うとは……」

「俺はただの回復術師だ。とはいえ、そのぐらいの呪いと傷なら治せる」

「そんなわけがあるか!」

 

 少女は急に声を荒らげた。


「回復術で傷は治せても、呪いは解呪できるものではない! この2つは全く領分が違う。呪術師ならば解呪した後に傷をポーションなどで治すこともできるが、ただの回復魔法で同時に治せはしない」

「そう言われてもな。回復魔法1つで治したのは事実だ」

「それは回復魔法などではない」

 

 少女は一瞬、信じられないといった雰囲気で言葉を区切る。

 しかし確信を持った声で言葉を続ける。


「使用可能な術者な現存せず、歴史書に書かれている存在も真偽が疑わしいと言われている、時間魔法だ

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