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【コミカライズ4巻発売中!】お局令嬢と朱夏の季節~冷徹宰相様との事務的な婚姻契約に、不満はございません~【書籍化】  作者: メアリー=ドゥ
新婚旅行編・後編

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エピローグ 朱夏の盛りに。

 

「……アル」

「ここにりますよ、イース」


 揺り椅子に座ってアルバムをめくっていたアレリラは、ベッドの上から掛けられた声に答えた。


 すると、安堵したようにまた寝息が聞こえ始めたので、再びアルバムに目を落とす。

 祖父や父母、交遊のあった数多くの人々が、そこには写し出されていた。


 魔導技術の成長は、絵以外にも、人の時を切り取って保存する技術を生み出したのだ。

 それはちょうど、ウーユゥが生まれた頃に開発された技術で、その存在を知ったイースティリア様が彼女の成長を収めるようにご指示なさった。


 お陰でアレリラは、今でもこうして、大切な記憶を色褪せぬままに思い返すことが出来る。


 ―――イースと共に駆け抜けた、朱夏の季節を。


「ご来客です」

「お通しして下さい」


 すると、今日約束していた相手がドアから入って来る。


「アレリラ~♪ 今日も来たよー!」

「アレリラちゃ~ん♪ 今日も美味しいお菓子を持って来たのよぉ~♪」

「たびたびご足労いただき、恐縮です」


 アレリラが立ち上がって微笑むと、ボンボリーノとアーハが、プルプルと同時に首を横に振る。


「オレ達は元気だからねぇ~!」

「座ってて良いわよぉ~♪ 膝悪いのにコケたら大変よぉ~?」

「はい、失礼致します。お二人もどうぞ、お掛けになって下さい」


 最近、何くれとなく気にかけてくれる娘婿の両親は、昔と全く変わらない。


 外見の話ではなく、その内面が。

 いつも明るくて、人にもその元気を分けてくれる方々だ。


 何か用事があるわけではない。

 ただ、たわいもない日々の話をして、少しお話をしてから帰っていく。


「そろそろ帰りますね~♪ イースティリア様ー!」

「イースティリア様も、お邪魔しましたぁ~♪」


 彼らは、今はもう一日の大半を寝て過ごしていて、あまり目覚めないイースティリア様にも毎回声を掛けてくれる。


 すると、ふと目覚められることもあるのだ。

 今日は、その日だった。


「ペフェルティ夫妻。感謝する……」


 微睡みとの境のような目覚めでも、イースティリア様はちゃんと聞き取れる言葉を口になさる。


「君たちの声が……聞こえると、嬉しくなる。アルの明るい声は、あまり聞けない」

「そう思ってくれるなら良かったですー!」

「また来ますねぇ~♪」


 そうしてボンボリーノたちが帰っても、今日は珍しくまだお目覚めのようだった。


「水を飲まれますか」

「ああ……」


 口に水差しを運ぶと、イースティリア様は二口ほど含んで口を閉ざされた。


「今日は少々、お元気ですね」

「昔の夢を……見ていた。アル」

「はい」

「愛している……」


 イースティリア様の言葉に、アレリラは彼の髪を撫でた。


 すっかり白銀に近い色合いになり、少々薄くなった髪は、パサついているけれど。

 触れられるのは、暖かいのは、まだ生きている証。


「わたくしも、今も変わらず、愛しておりますよ。イース」


 微かに微笑んだイースティリア様は、そのまままた眠りに落ちた。


 後幾度、こうしたやり取りが出来るだろう。

 けれど寂しさの中に、生涯添い遂げられたことに嬉しさを感じる自分もいる。


 イースティリア様とは、共に過ごした時の方が遥かに長くなった。


 窓の外に目を向けると、強くなり始めた日差しが初夏の庭を照らしている。

 そろそろ冷却の魔導具で部屋を冷やす指示を出さないと、イースティリア様のお体に障るだろう。


 ぼんやりとそう考えながら、アレリラは、目を細めた。


 ―――わたくしは、本当に、幸せです。


 イースティリア様は、一つの時代をお作りになられた。


 彼の打ち出した数々の政策で帝国は飛躍的に発展し、人々の生活は当時より遥かに豊かになった。

 アレリラ自身も、その手助けをほんの少しでも出来たことが誇らしい。


 人の季節は、この先も巡る。

 イースティリア様とアレリラがいなくなっても、その先へと続いて行く。


『君に婚約を申し込みたい』


 そう言われたあの日から、アレリラの人生は変わった。

 きっとあの日が、アレリラにとっての朱夏の始まりだったのだ。


 夏が来る。


 花開くように、多くのものが盛える季節が。

 イースティリア様と共に歩んだ、あの鮮やかな季節が、今この瞬間も訪れている。


 ―――誰かにとっての、朱夏の季節が。

 

これにて、本編は終了となりますー。


とりあえず三話ほどアフターストーリーやサイドストーリーを投稿し、それで一度区切りといたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです、良い物語をありがとうございました。
[良い点] しみじみですね……書籍購入済みですが。 [一言] 帝都の魔薬騒動とか、瘴気の動乱とかもお待ちしております〜
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