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【コミカライズ4巻発売中!】お局令嬢と朱夏の季節~冷徹宰相様との事務的な婚姻契約に、不満はございません~【書籍化】  作者: メアリー=ドゥ
新婚旅行編・後編

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異国の文化というのも、また良いものです。


 そうして、一日後にサーシェス薔薇園に赴く前に、オルブラン本邸のある街を見て回ることにしたアレリラは……久しぶりに手持ち無沙汰(・・・・・・)な気分を味わっていた。


 理由は単純で、今の状況には『目的』がないからである。


 この国を訪れた最大の理由である交渉は明日であり、イースティリア様がスーファ様の案内を丁重に断ったこともあり、特に外交も意識することがない。

 

 ただただ、異国の空気に触れているだけだった。


「雑多ですね」


 イースティリア様と共に、幌を畳んだ馬車でガタゴトと揺られながらアレリラはそう口にした。

 緩やかなペースで、遊歩道のある大広場を目指しているのだけれど。


「活気があるのは良いことだ。帝国と比べれば、そうした印象が強いのは認めるが」

「何の差なのでしょう?」

「交通法と道路自体の整備が追いついていないのだろうな。帝都周辺やウェグムンド領、ペフェルティ領辺りは帝国人が多い。オルブラン領は三国の人種が入り混じっているので、徹底するには少々時間がかかるのだろう」

「交通法……なるほど」


 実家のダエラール領ではそこまで広い道はないので気にしていなかったが、確かに帝都近くや内陸を行き交う車は、道が広くともきちんと左右に分かれて進むモノが多い。

 特に帝都の近くは交通整理を行う者達も多く配置されていて、動き方に統一性があった。


 オルブラン領の道路は広いが、大半が土を固めただけの状態である。

 それでもぬかるみやすそうなところには板が敷かれているが、帝都の最新技術であるアスファルト舗装や、ペフェルティ領他交易街で主に使用されている石畳や煉瓦敷き、あるいは砂利等の舗装は存在しないか、あるいは始まったばかりなのだろう。


 そんな中を、牛車や人力車、荷馬車や竜車も含む様々な車が縦横に自由に行き交っているのである。

 アレリラ達が乗る馬車も、器用にそれらの車とぶつからないように進んでいく。


 徒歩の人々の多くは、歩道すらない道の端を歩いていた。


「帝都近くで行われている形の方が、結果的に利便性が高いように思えますが」

「実際そうだろう。が、予算が潤沢であり、かつ遵法意識の浸透があることが前提となるからな。道の整備が始まった段階では、まだまだそこまでは行かないだろう」


 イースティリア様が、正面に遠く見える劇場の方を指差したので、アレリラはそちらに目を向けた。

 確かに、そちらの方では道路の整備が行われ始めているようだ。


「技術の適用は画一的には行われない。元々の資源量もあれば、魔獣の脅威が身近か否か、産業の内容にも左右される部分だ。たとえば、ああした(いち)がオルブラン領では盛んなのだろう」


 と、次にイースティリア様が目を向けたのは、背の高い建物と建物の間、いわゆる二番道路や脇道と呼ばれるような道の方だった。


 そこかしこで、道の両脇にテントや露天商が商品を広げており、あるいは馬車等が入れない食料市らしき道には人が埋まるほどひしめいている。

 確かに、帝都では厳格に市の開催場所が決められている為に見られない光景だ。


「オルブラン領はああした交易による利益を重視しており、運河が近くにあることも相まって、陸路整備の必要性が優先順位的に今まで薄かったのだろう。食料には困らずとも、それ以外の金品や日用品等の産出は国内外の輸入に頼っている部分が大きい」

「なるほど。宿舎や住宅と見受けられる高層の建物が多いのはそうした理由もあるのですね」


 異国から来た者達が寝泊まりする場所、あるいは商売を生業とする者や、それを手伝う日雇いの者らが多ければ安価かつ人を多く収容する建物が多くなるのは必然である。


 オルブラン領は『王国の穀物庫』と言われるだけあって、多くの地域が小麦他食料畑になっている、と知識としては知っている。


 けれど本邸のある地域に関しては、イースティリア様のおっしゃる通りライオネル王都に向かって流れる大河があり、北部の港と水路で繋がっていた。

 オルブラン本邸のあるこの地域が、ペフェルティ領における交易街の役割も担っているのである。


「大公国の文化と帝国の文化、そしてライオネルの文化が交わる地点に存在するこの都市の文化的側面は、様々な国の様式を取り込んだ背の高い建物や、芸術や美術に造詣の深いハビィ・オルブラン侯爵の気質的に興行(こうぎょう)に集約されているのだろうな。これから赴く大広場でも、大道芸や美術品の展示、楽団の演奏などが行われている筈だ」


 ーーーところ変われば品変わる、ということですね。


 紙の上の知識だけでは、やはりその土地の空気感というものは分からない。

 そうした視点で見ると、技術の(すい)を極めたタイア領の様子や、華やかさよりも実利や民との交流を重視するロンダリィズ領、食文化に強いペフェルティ領とはまた違った趣きのある土地なのだ。


「勉強になります」

「少しは手持ち無沙汰な気分が晴れたか?」


 問われて、アレリラは目をぱちくりさせた。

 イースティリア様の顔を見ると、小さく微笑んでいる。


「アルは知識もあり、好奇心も人一倍だが、それを活かした楽しみ方というものをあまり知らない。が、知っていることに絡めてその土地の有り様を眺めるのは、知識があるからこそ出来る楽しみ方の一つだ」

「そう、ですね」


 アレリラも、小さく微笑み返した。


 ーーーそうです。そういう『楽しみ』をイースと共有する為の、新婚旅行でした。


 ついつい、何かをしなければならない、と考えてしまうのは、アレリラの悪い癖だった。

 


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