隣国に旅立ちます。
「お世話になりました。慌ただしい出立になり、誠に申し訳ございません」
二日後、用意された飛竜便に荷物を積み終えたアレリラは、キャリィ様を抱いたアザーリエ様に頭を下げる。
すると、横に立つダインス様が悔しさを思い出したように鼻を鳴らした。
「全くだ。まさか妻の実家に訪れて、大損こくとは思わなかった」
「損は、しておられないかと思いますが」
ただで鉱石を輸入する訳でもなく、最初よりも条件は多少悪くなったけれど安く麦を仕入れられ、美肌軟膏の優先権も手にしているのである。
光源技術も、アレリラの判断で彼に提供していた。
後でイースティリア様に聞いたところによると、技術提携も、将来的にお互いの国の利益になるそうだ。
鉱石産出国であり工業大国である北の国バーランドは、魔導機構に関する優秀な技術を持っているので、その力を借りられれば技術進歩までの期間は数年縮まる、という予測も立てている。
「ダインス様ぁ〜。負けたのが悔しいからって、アレリラ夫人に当たらないで下さいぃ〜」
へにゃん、と眉をハの字に曲げたアザーリエ様に、ダインス様は頭を掻く。
「……ああ、すまない」
「気にしてはおりませんが」
損をする、という言葉の間違いを正しただけなので、特に謝られる理由もなかった。
しかしアレリラの知る限り、どこの夫も、妻には弱いらしい。
その間、ロンダリィズ夫妻と言葉を交わしていたイースティリア様が近くに来て、声を掛けられた。
「では、行こう」
「はい」
これから、タイア領に向かい、その先は隣国である。
大変な事態に直面していて、これからも気の抜けない交渉が待っているけれど、また新たな知見を得られる機会があると考えると、アレリラの心は弾んだ。
「またお会いしましょうねぇ〜」
「ええ、是非。大街道が開通した後に、国家間横断鉄道に乗り、バーランドにも訪れてみたいと思います」
「是非是非〜」
この二日の間で、すっかり以前と印象の変わったアザーリエ様に、最後にもう一度礼をした後、それぞれの人々にもう一度挨拶をして。
アレリラは、飛竜便に乗り込んだ。
短いですが、本日二話目です。これ以降は隣国編となります。
申し訳ありませんが、再開時期はまた数ヶ月後です。よろしくお願い致します。




