【おまけ】伯爵様はバカなので。
ランキングお礼のおまけ短編です。アレリラと婚約破棄したおバカの話。
「ねぇ〜、ボンボリーノぉ」
「何だいハニー?」
しなだれかかる金髪碧眼の、最近胸がデカいだけでなく全体的にふくよかになってきた妻、アーハの問いかけに。
つい先日ようやく爵位を継いだボンボリーノ・ペフェルティ伯爵は、かつての婚約者を目で追いながら答えた。
スリムで長身なアレリラは、昔と変わらない完璧な微笑みで、彼女の婚約者となった宰相殿の横に立っている。
背丈も釣り合っててめちゃくちゃお似合いだ。
―――まぁ、俺とアーハもお似合いだけどな!
何せお互いにそこそこ顔が良く、仲良く太り始めている。
頭が悪いところがソックリで気が合うのだ。
「あなた、何であの人と別れたのぉ〜?」
「えー? バカだからだよ〜」
ボンボリーノの答えが気に入らなかったのか、アーハがムッとする。
「そこは私が好きだから、でしょぉ〜?」
「まぁそれは事実だけどさぁ、ハニー。さすがにアレリラ嬢と君を比べて君を選ぶ俺はバカじゃね〜?」
アハハ、と笑うと、アーハも笑う。
「確かにぃ〜! そのおかげで私は伯爵夫人だけどぉ〜」
「そうだろ〜? 誰も不幸になってないからいい感じだよな〜!」
ボンボリーノは、自分がバカだという自覚があった。
バカらしく、疑問に思うこともなくアレリラと婚約者を続けて、背を抜かれたらムカついて、成績で負けるとムカついて、自分にはよく分からん話題を話すアレリラにムカついていた。
そしてふと気づいた。
―――あれ? これ俺もアイツも幸せにならなくね?
と。
ボンボリーノはアレリラの賢い会話や変わらない表情がつまらないし、アレリラも自分のようなバカの相手はつまらないだろう。
―――やっぱ、一緒にバカ笑い出来るヤツのがいいよな〜!
そんで賢い奴ってのは、バカを相手にするのはイライラするだろうし。
ボンボリーノはそれに気づいたから、婚約解消してくれないかと両親に言ったのに。
『お前のようなバカにはもったいない婚約者だぞ!?』と、自分よりもバカな両親は動かなかった。
―――いやもったいないから別れるんだろ!?
だから、アーハを見つけて浮気して、堂々と婚約破棄を宣言して、両親が破談に持って行かざるを得ないようにした。
しこたま怒られたし、相手の子爵夫妻もめちゃくちゃ怒ってたけど、まぁヘラヘラして乗り切った。
アーハを口説くのに時間かかったせいで、それをしたのが18歳の時で、その後に起こったアレリラの悪い噂だとか、結婚適齢期だとかのことまで全く考えていなかったけど。
ボンボリーノはその辺が、自分がバカである所以だと思っている。
―――まぁ、ゴメンな!
アレリラにそんな風に思いつつ、一生、バカの相手をするよりは良いだろ、と思っていた。
「そのお陰で超絶美形有能な宰相閣下とご婚約だぜ〜? 感謝されても良いくらいだろ〜?」
「そ〜かもぉ〜! いやーん、私も宰相閣下に見初められたい〜!」
「あっはっは、君じゃムリだよハニー。胸以外の全てがアレリラ嬢より劣ってるよぉ〜!」
「あなたも顔含めて全部宰相閣下より劣ってるでしょぉ〜!?」
「間違いない!」
そんな風にケラケラ二人で笑っていると、アレリラが宰相閣下の側を離れる。
「どーしよっかー。一応元婚約者としておめでとうくらい言っとく〜?」
「さすがにバカにされてると思いそうだからやめといたらぁ〜?」
「それもそっかぁ〜」
アハハ、とまた笑ってるうちに、ミッフィーユ公爵令嬢がアレリラに近づいていって、それから宰相閣下が近づいていって。
―――アレリラが顔を赤くして嬉しそうに笑うのを、見た。
ボンボリーノは唖然とした。
「マジぃ!? 見なよハニー! アレリラ嬢の超絶レア顔だぜ! 初めて見た!!」
「そりゃあなたにあんな笑顔浮かべないでしょぉ〜!」
「間違いない!」
なんとなく、そんな顔を見て良い気分になったボンボリーノは、自分の横で同じようなバカの笑みを浮かべてくれるアーハの頬を撫でる。
「やっぱ俺には君みたいな子がお似合いだよな〜! そういえば、領地を見てくれてる雇われ爺さんがそろそろ引退なんだけど、平民で良さげな人いない?」
「外から賢い人入れたら、私たちを騙して、財産無駄遣いするかもしれないからダメよぉ〜。従兄弟のオッポー君とかがいいんじゃない〜?」
「えー、アイツ、クソ真面目だし君よりもケチじゃん〜!」
「だから良いんじゃないのぉ〜!」
元々商家で、男爵に成り上がった家で育てられたアーハは、バカで面倒くさがりだけど人を見る目があり、意外とケチなのだ。
金があるとついつい使ってしまうボンボリーノとしては、やっぱりアーハで良かったなーと思う。
アレリラだったら、人に任せないで全部自分でやってしまい、結果的に疲れてしまっていただろう。
―――遠回しにバカ扱いされても、俺、気付けないしな〜。
真正面から言われる方が性に合う。
「じゃ、明日オッポーに聞いてみよっか〜。そろそろ帰る? ハニー」
「そぉねぇ〜。デザートだけ食べて帰りましょぉ〜!」
最後にもう一回だけ、チラッとアレリラを見たボンボリーノは、そのままアーハとデザートを楽しんで普通に帰った。
次の日には、もうアレリラのことは忘れていた。
だって、バカだから。
お読みいただきありがとうございます。
ボンボリーノ君は、気さくで怒らず、頭が悪いのに何故か人望があり、周りにいると幸運が訪れるタイプの『バカ』です。
『アイツまたバカなことしてるわ……』って呆れられつつ、アレリラを捨てた理由を聞かれたら素直に答えるので、彼の周りの人たちはアレリラに同情しつつも悪い噂は撒いてません。
噂の出どころは、無責任な第三者ですね。
アレリラの就職に関しても、ボンボリーノくんから理由を聞いた宮廷勤めの年上のお友達が、彼女を採用しました。
でもお前やっぱバカだろ、と思った方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたします。