表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ4巻発売中!】お局令嬢と朱夏の季節~冷徹宰相様との事務的な婚姻契約に、不満はございません~【書籍化】  作者: メアリー=ドゥ
結婚編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/100

胸に引っ掛かります。


 エティッチ様とウルムン子爵のご面会は、想像以上に盛り上がった。


「まぁ、でしたらエリュシータ草の栽培に成功なさったのは、コロスセオ様の功績ですのぉ〜!?」

「い、いえいえいえ! わた、私は肥料の種類が間違っているのではと父に提言しただけでして!」

「それでも凄いですわねぇ〜……あの草は、ヒーリングドラゴンの堆肥でしか育たないので、竜の群生地まで取りに行かなければいけない危険で貴重な薬草でしたのにぃ〜!」


 どうやらエティッチ様は、薬草への造詣が特に深いようだ。

 そして相手をするウルムン子爵も、ご実家の薬草関連の事業に関わっているようで、家庭菜園の趣味というのはご家業の延長線上にあるようで。


 ーーーなるほど、勉強になります。


 机を挟んで座っている二人の話を、アレリラは横で黙々とメモに取る。

 ヒーリングドラゴンは、聖女の治癒魔術と同等の〝治癒の息吹(ブレス)〟を放つ存在だが、非常に気性が荒い。


 その為、以前イースティリア様が家畜化の為の予算を組んで、竜飼いが卵から育てることで、攻撃性を下げて友好的な品種改良にある程度成功したのは、一昨年のことだったと記憶している。


 ーーーこの為だったのですね。


 あの方の先見の明と采配はどこまで幅広いのだろうかと、自らの夫に感銘を受けている間に、二人は実際に生えているというエリュシータ草を見に行こう、と盛り上がっていた。


 土に汚れてもいいような格好に着替えた(そもそも畑の案内が予定に入っていたので準備していた)三人での道すがらにも、エティッチ様とウルムン子爵の会話は弾んだ。


「エリュシータ草が【生命の雫(エリクサー)】の原料であることは有名ですが、実は製法によっては古代に存在したという【復活の雫(フィロソラピドロ)】も生成できるのではと言われているのですよ!」

「まぁ、それはどういうものですの〜?」

「【復活の雫】は! 一説には【賢者の石】という不老不死の効能や、若返りの効能を持つと言われる、卑金属を貴金属に変える伝説の……」

「ウルムン子爵。話を遮って申し訳ございませんが、対話であることをお忘れなく」


 調子に乗ってうんちくを披露しかけた彼に、チクリと水を差すと、しまった! という顔で慌ててエティッチ様を見る。


「も、申し訳ないっ! けけ、決して一方的に捲し立てようとしたわけでは……!!」

「ウルムン子爵。ご令嬢の体にみだりに触れるのはお控え下さい」


 ガシッと手でも掴みそうな勢いで詰め寄って謝罪するウルムン子爵に、アレリラはさらに注意を与える。


「う……!」


 ピタリ、と動きを止めたウルムン子爵に、ほほほ、と口元に扇を当てたエティッチが答えた。

 

「お気になさらずですわ〜。趣味が合って、好きなことを生き生きと話してくれる殿方は好ましく思いますの〜」

「え、エティッチ嬢……!」


 ジーン、と感動している様子のウルムン子爵は、どうやらこの調子で興味のある話題を捲し立て、相手が引くと慌ててしまい、謝罪するつもりが体に触れてしまう……というようなことを繰り返していたのではないだろうか。


 以前聞いた悪評は、そのせいで立ったものに思えた。


 それから、ウルムン子爵はどの程度話していいものか、おどおどと手探り状態でぎこちなく会話を続け始めたが、エティッチ様は気分を害した様子もなく、かつスムーズに彼の緊張を抜きながら話を進めていく。


 対話の形で話す分には、何の問題もない。


 ーーーエティッチ様をお選びしたのは、間違いではございませんでしたわね。


 彼女の本心は読めないものの、ウルムン子爵を嫌っている様子は特にない。

 これが本当のお見合いに発展しても、それはそれでロンダリィズ夫人的にも問題はなさそうだったので、アレリラは流れるままに任せることにしたが。


「……」

「……」

「……」


 薬草畑の見学が終わった後は、何故か三人並んで湖で釣りの時間となり、そこではふっつりと会話が途切れてしまった。


 ーーー……?


 不思議に思ってお二人の顔を観察するものの、二人は会話がないことを特に気にしている様子はなく、むしろこの静けさを楽しんでいるようにすら見える。


「つかぬことをお伺い致しますが」

「何ですか〜?」

「このような沈黙は、居心地が悪くはないものなのでしょうか?」


 すると二人は顔を見合わせてお互いに首を傾げる。


「つ、釣りは静かに楽しむものではっ?」

「同感ですわねぇ〜。アレリラ様は、イースティリア様と常にお話をされておられますの?」

「特にそういう訳ではないですが」

「でしたらその時、居心地は悪いですの?」

「……言われてみれば、そういうことはございませんね」


 ならば、このまま沈黙を継続するのが正解なのだろう、と、アレリラは二人が切り上げるまでそれに付き合った。

 ちなみに釣りは初めてだけれど、小さい魚が二匹釣れて、少しその楽しさが分かった。


 ーーー今度、スケジュールの調整が出来ればイースティリア様をお誘いしてみようかしら。


 彼が釣りを楽しむ人種かどうかは分からないけれど、何せ二人は交際期間0日で婚約したから、実は小さなことも知らない。

 職務中と、屋敷でのイースティリア様しか存じ上げないのだ。


 ということに気づいて、アレリラは何故か胸がモヤモヤした。


 しかし、その意味を理解出来ないままに、エティッチ様とのお別れの時間となる。

 

 今度はしっかりと、ロンダリィズ夫人にご挨拶を申し上げて、再度訪ねた時の謝罪をした。


「本日は、とても楽しかったですわぁ〜! コロスセオ様、またいらして下さいねぇ〜!」

「エティッチ。初対面の殿方をお名前でお呼びするとは何事ですか。貴女は、姉に慎ましさを奪われてしまっているようですわね? それに自ら、問われてもいないのに再会を望むなどと」


 礼儀知らずがと言わんばかりの眼光に、エティッチ様が、ひぅッ! と喉を鳴らす。

 きっとアレリラたちが帰った後に説教を喰らうのだろう。


 ウルムン子爵にとっては適度に肩の力が抜けて良い態度なのだけれど、確かに貴族令嬢としてはいかがなものかと思わないでもない。


「で、でもお母様! ご好意は伝えておかないと、相手には伝わらないではありませんかっ!」

「お黙りなさい。何の為に手紙やお茶のお誘いがあると思っているのです」


 ロンダリィズ夫人の言い分は、一切間違っていない。

 間違っていないのに。


 ーーー好意は、伝えなければ伝わらない……。


 その言葉が、妙にアレリラの胸には引っかかった。

 

 ウルムン子爵が気にしていない旨と、今度は自分の方からお誘いを、と伝えて場を辞し、馬車に乗り込む。


「お疲れ様でした」

「す、すみません、何度も注意を……!」

「構いません。その為にわたくしが同行しているので、特に減点などの処分はございません。今後の改善は、ご自身でなさることになるとは思いますが」


 アレリラは、はぁ〜、と力が抜けて心なしかグッタリしているウルムン子爵に問いかける。


「如何でしたか? エティッチ嬢とのご交流は」

「たっ、大変、素晴らしい時間でした! あ、あのように、その、気分を害すことなく私と接して下さったご令嬢は、は、初めてでした……!」


 疲れていながらも興奮した様子でキラキラと目を輝かせた彼は、しかしすぐに自信なさげに肩を落とす。


「で、ですがっ、あれほど魅力的なご令嬢であれば……その、私なんかでは」

「もしエティッチ様がそう思われているのであれば、もう一度お会いしたいというお誘いはなかったかと思いますが」

「そう、でしょうか……?」

「少なくとも『ご好意を伝えておかなければ』という言葉は、出てこなかったかと。おそらく、イースティリア様は、そうした言葉を口にした場合の周りの状況も含め、察する力を磨くようにとの仰せだと思われます」


 アレリラは、今日の最後にエティッチ様が発した言動を書き留め終えて、各会話の自分なりの注釈を復習して、ウルムン子爵に問いかけた。


「出会ってから、共に過ごした時間。最後の時に発されたエティッチ様の言葉は、ウルムン子爵から見てどのように思われましたか?」

「……か、勘違いかもしれませんが、楽しんでいただけたように、思います。そして、その、ロンダリィズ夫人に怒られても、好意を伝えてくれたということは、その……」


 顔を赤くして俯くウルムン子爵は、ボソボソと告げる。


「お誘い申し上げても、ご迷惑には、ならない、かと」

「はい。わたくしもそのように思います」


 アレリラはうなずき、女性に再度お誘いの手紙を書く際の注意事項を書き連ねて、そのメモ書きを手渡す。


「こちらは定型文の形式、その次に、褒める際、誘う際の注意事項。こうした手紙を送る場合に決めておくべき事柄……この場合は受けるにも断るにも判断材料にしやすいよう『どこへ、何をしに』を明確に。ドレスコードが違いますので。また、失礼がないようにこうした場合には……」


 と、アレリラが手紙の書き方を教授するのを、ウルムン子爵は熱心に聞き、的確な質問を投げかけてくる。


 ーーーやはり、この方は有能なのですね。


 人付き合いが下手で苦手なだけで、こうして興味を持ち、耳を傾ける気があれば熱心に吸収する。

 今も、たった一日少し注意をしながら過ごしただけなのに、ロンダリィズ邸へ赴く時よりも格段に会話が成立しやすく、付き合いやすい人物だという印象に変わっていた。


 エティッチ様との関係性がどうなるかは、本人たち次第ではあるけれど。


 上手くいくといい、と素直に思い。

 アレリラ自身の懸念は、大きくなっていた。



 ーーーわたくしは、エティッチ様のように、きちんとイースティリア様にご好意を伝えられているのでしょうか?


 

 それは婚約を申し込まれた時以来、初めて芽生えた疑問だった。

 

七万文字超えて、初めてなんか、恋愛っぽい悩みが芽生えたアレリラです!_(:3 」∠)_もう夫婦なのに遅いよぉ……


エティッチとコロスセオが交流を深めるのが先か、アレリラが自分の愛情の伝え方に答えを出すのが先か!


気になる方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたしますー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] エティッチとコロスセオは一気に婚約まで行くとみた!(笑) きっとエティッチ達の方が先だなw アリレラもイースティリアも堅いから…(笑) エティッチの才は薬草学でしたか〜 マジでお似合いな二人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ