表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/100

やはり彼ですか。


「ウルムン子爵は、未だに奥様がおりませんのよねぇ〜」

「というのも、婚約前から縁談を持ちかけたご令嬢に、夜会で距離を婚約前からガン詰めし過ぎて引かれてしまうのですわ!」

「そしてお断りされると、やけ酒して周りに絡みますのよ〜」

「そういうことが何回もございましてねぇ〜」

「なぜか反省の色がなく、周りから敬遠されて行ったのですけれど」

「それをお諌めしたのが、ボンボリーノ様なのです〜」

「そうしたらベロンベロンに酔ったあの方、なんて仰ったと思いまして〜?」

「『俺の方が美形で有能なのに、爵位が高いだけのバカが偉そうに指図すんな!』と怒鳴ったそうですの!」

「それで皆に嫌われちゃったみたいなんですのよ〜」

「残念ですわねぇ、仕事が出来ると評判で顔は良いのにぃ〜」

「ボンボリーノ様を真正面から罵倒したせいで、周りの方々から反発されてしまって」

「ボンボリーノ様は気さくで人気がございますのに、あの方は少し周りが見えていないんですのよ〜」


 うふふうふふと楽しそうに、本当に楽しそうにウルムン子爵について暴露を始めた三人娘に。


 ーーーなるほど、だからお三方はミッフィーユ様にお灸を据えられたのですね。


 と、アレリラは納得した。


 人の悪い部分をイキイキと語っている三人のお顔は、それだけ見れば頬を染めて目を潤ませ『恋の話でもしているのかしら?』と思うくらい、可愛らしいもの。


 しかし、いざその内容を聞かれたら殿方から心底敬遠されてしまうのでは、と思うくらい、顔と行動が一致していない。


「ボンボリーノったら、そんなに人気があったのねぇ〜! 流石うちのダーリンよぉ〜! まぁ、イースティリア様には劣るけどぉ〜!」


 ボンボリーノが褒められて嬉しいのか、アーハが胸の前で手を組みながら満面の笑みを浮かべて身を乗り出す。

 

 ーーーでもそこは、あえて下げなくてもいいのでは?


 もしかしたら、ボンボリーノとの婚約破棄の件も含めた、アレリラへの配慮なのかもしれないけれど。


 逆にアーハが何も考えていないとしても、そしてボンボリーノ本人に聞かれていたとしても、お互いに気にしないのでしょうね、と、そう思うくらいには貶し言葉に悪意がない。


 これも一種の才能なのだろう。

 きっとアレリラがイースティリアのことをそんな風に貶したら、本気で言っているようにしか聞こえないに違いない。


 するとそこで、もう一人何を言っても明るく許される女性、ミッフィーユ様が反論する。

 

「あら、アーハちゃん! 私ならペフェルティ伯爵の方がいいですわ! あのムッツリ無愛想お兄様は、思ったことをめちゃくちゃ辛辣に言うのですよ!? 笑って何でも肯定してくれるボンボリーノ様のが良い男ですわ!」

「そんなことないわよぉミッフィーユちゃん! ボンボリーノは何も考えてないだけよぉ〜。イースティリア様の言ってることは、なるほど確かにって納得出来るじゃな〜い!」

「でも口うるさいですわ! 『気が強いのは美点だが、口さがない者は下品だぞ』だとか『惚れた腫れたの前に、公爵令嬢としての教養と礼節を身につけたらどうだ』とか! ヒドいんですよ! ねぇアレリラお姉様も言われてますでしょう!?」


 そう問われて、アレリラは考える。


 失敗した時、過去の話をした時。

 こうすれば良い、もったいない、などは言われたけれど、彼の口からアレリラ自身の至らない点について、何らかの注意を受けたことが……。


「……ございませんね……」

「え?」

「礼儀礼節、教養や知識。不手際や欠点。そうしたものについて、イースティリア様からなんらかのご注意を受けたことはございません。不足している点について、展望の解説や教導を受けたことはございますが……」


 いくら思い返してみても『君にはこうした問題がある』等の言葉を受けた覚えがなかった。


「う、嘘でしょう!? あのお兄様が!? お父上やお母上の不手際にまでも容赦なく言及するあのお兄様が!?」


 ミッフィーユ様がショックを受けたように驚きに目を見開く。


「ない、と思います。わたくしの所作や準備に対してお褒めの言葉はよくいただきますが……」


 何か自分の方がおかしいのだろうか、とアレリラは不安になった。


 注意というものは、成長が望まれる者に対して伝えることのはずだ。

 となると、イースティリア様はアレリラに初めから成長を期待していなかった、ということなのだろうか。


 そう思っていると。


「お兄様……ズルいですわ……!! 好きな女性だけは、甘やかして良い顔をしていたのですわね……! ムッツリ無愛想じゃなくてムッツリスケベ野郎だったなんて……!」

「ミッフィーユちゃぁん、流石に言葉が汚な過ぎよぉ〜! あと多分、アレリラ様は昔から非の打ち所がないアコガレだったから、注意するようなことがないのよぉ〜! きっと自分で色々気づいちゃうから〜!」

「……確かに……! アレリラお姉様ですものね。あのお兄様ですら口を挟む余地なく完璧だったのですわ……!」

「そういうことではないと思いますが……」


 というアレリラの否定は、むぎぎぎとハンカチを噛み締めるミッフィーユ様と、カラカラと笑うアーハ様のお二人に無視されてしまった。


「確かに、アレリラ様は完璧ですものねぇ〜」

「ミッフィーユ様ですら、お見劣りするくらいですわ」

「こうして二人を見てみれば、なんであんな噂で勘違いをしてしまったのか、己の不明を恥入りますわね〜」


 どうやらウルムン子爵への悪し様口撃で気が緩んだのか、ナチュラルに三人娘が煽ると。


「貴女がた! そーゆーところですわよと申し上げておりますでしょうッ! 二度とお呼びしませんわよ!?」

「「「ヒィ! 申し訳ございません!!」」」


 ギッ! とミッフィーユ様に睨まれて、お三方が慌てて謝罪した。


 音もなくお茶を口に含んだアレリラは、そのまま空気を変える為にさりげなく話題を戻す。


「エティッチ様。先ほどのお話でウルムン子爵のお人柄は理解出来ましたが、それが何故、派閥離れに繋がるのでしょう?」

「それはもちろん! イースティリア様がウルムン子爵を重要な地位から外した、ということが知れ渡ったからですわ〜!」

「え……?」


 アレリラは、訝しんだ。

 

 ーーーあの書類は各所に回す前のものだったのですけれど。


 つまり正式な内示よりもさらに前の、人事案である。

 その話が漏れた、というのなら、イースティリア様がそのような事を口になさるはずがなく、アレリラも同様に誰かに伝えていない以上、関わっているのは……。


「アーハ様……あの場での話を、どなたかに話されましたか?」

「まさかぁ〜! だってアレって凄く大事な部下決めの話でしょぉ〜? お父様だって下の人間をどう選んだかなんて話しないしぃ〜……って、あ」


 アーハはそこまで言って、顔を青ざめさせる。


「あの話、ボンボリーノに口止めしとくの忘れてるかもぉ〜!」


 その反応に、アレリラは深く深く嘆息する。


「わたくしも迂闊でした。八年ほど会っていなかったので、扱いを忘れておりました」

「ごごご、ごめんなさいぃ〜!」

「いえ、アーハ様のせいでは」


 そう。

 ボンボリーノに大事な話をする時は、あらかじめ『これを話してはいけません』と伝えなければいけないのだ。


 でないと、見聞きしたことが重要かそうでないかを彼は考えないので、『ついうっかり』口を滑らせてしまうことが多いのである。


「ーーーイースティリア様に、お伝えしなければなりませんね」

 

 ウルムン子爵は、確かに少々人柄に問題はあるのかもしれないが、紛れもなく仕事面では優秀な方なのだ。

 イースティリア様としても失いたくない人材であろうことは、アレリラも理解出来る。


 慌てたり謝ったりと忙しいアーハを宥め、残りの方々にもこの場でのことを口止めしてから、アレリラはお暇した。

 

まるで有能であるかのように勘違いされがちですが、ボンちゃんはあくまでも『愛されるバカ』です。


つまりバカなんです。


というわけで、せっかく上がった株を自ら下げるトラブルメーカーな面が表に出てしまいました。


ボンボリーノぉ!! お前ーーー!! と思われた方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やったなボンちゃん笑
[一言] ボンちゃんがやらかしても、憎めませんよね~。可愛すぎて。 3人の困ったお嬢様方がほかの物語とつながっていたのですね~。おもしろいです~。 この3人は使いようによっては、とっても便利そうで…
[一言] 秘密は守れる男! 自らその判断はできない!っていうかしない!! 『言っていいか自ら判断しろ』って言われたら、考えて判断でき…………いや、 こっちかな?↓ 「う~んでも俺馬鹿だからわかんない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ