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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

出会いの物語

作者: ギフト

ふと自分の日常に退屈していないだろうか

会社での人間関係・出世、何が目的で生きているのだろうか


人との出会いはいったい何をもたらすのでしょうか。

若者たちは海外の収穫祭を祝い、なぜかコスプレをして徘徊しているような時期に出会ったある女性との陳腐な話をせっかくなので紹介したいと思う。


はじめに言っておくが、この話の主役は「私」ではない。


この地方都市に来て、早3年の月日がたち、私はこの街に飽き飽きしていた。

朝起きて、出社して、スーパーの半額弁当や総菜パンを食べて寝る生活を続けていた。そんな私の月に一度の楽しみは部下を引き連れていくキャバクラだ。一人の時にはソープに赴く。

こんな街だ、若い女も特別な美人もいないがリーズナブルな値段で、都会と違ってぼったくりもない。弁えている女性も多く気持ちよく過ごすことができる。


そんなある日、部下の山田から相談があるということで馴染みの店に行くことになった。酒の品ぞろえもよく、鉄板焼きやお好み焼きなどを出してくれる店であるが、私はこの店の隠しメニューである明石焼きがお気に入りである。

山田の相談事など、たいしたことないのだろう夜空が輝く寒空を一人仰ぎながら思いふけっていた。


職場から、店に向かうなか、山田からの相談が始まった。

「神野さん、本日はお忙しい中にもかかわらずありがとうございます。今日相談したいことというのが、同僚の飯本さんとの関係で・・・なぜか嫌味に絡んでくるのですよね。なにか気に障ることをしてしまったのでしょうか?あの人職場の食堂の人にも突っかかって、食堂のパートの人やめちゃって人が足りないって・・・」


こいつは店につくまでも待てないのかと、うっとうしく感じるが、これも人事考課に向けてだとよき上司を演じる。360度評価などくそったれだと思うのは私だけではないだろう。さっさと昇級試験を受けたいものだ。

この山田はなんだかんだで、若くしてプロジェクトチームの主任を任せているできる男ではある。こいつを味方につけておくには私にとってもメリットがある。飯本は山田とは別のプロジェクトチームの主任を任せているが、若くして出世した山田のことが気に食わないのだろう。


今日はさっさと酔わせて、話を有耶無耶にして終わりにしようと固く決意した。


店に入ると、店のカウンターで若い女が泣いているのが目に入った。正直酒が不味くなるから勘弁してほしいと思いながら離れた奥の席に案内してもらった。


一時間ほど、飲み食いし、山田も満足したように見える。しかし相変わらず、カウンターにいる女の鳴き声が癪に障る。山田も困ったように苦笑いをしている。


そんななか、肝っ玉母ちゃんのような店主が近づいてきて、信じられないことを言ってきた。

「神野さん、悪いんだけど・・・あの子の話を聞いてあげてくれませんか?詳しいことは本人から聞いてほしいんですけど、あたしらじゃ力になれそうにないんでね」少し疲れた顔をしていた。


面倒くさい。断りたい。しかし、行きつけの店主の頼みで、何より部下の前だ・・・格好悪いところは見せられない。私の評価に関わる。


カウンターで泣いていた女性を店主に紹介され、斎藤という名前らしい。話を聞くこととなった・・・

せっかくこの私が話を聞くことにしたのにずっと泣き続けていい加減鬱陶しいと感じ始めたが、笑顔で私から語りかけた。

「ゆっくりでよいので、もしよければお話を聞かせてもらえませんか。」

なるべくゆっくりと落ち着いた声を心がけて、語りかけてみた。日頃の管理業務で鍛えた処施術だ。


少し落ち着いてきたのだろうか・・・齋藤は今年専門学校を卒業する予定の就活生のようで、なぜ泣いていたのかを語り始めた。

「就職活動をやってもうまくいかず、今日内定が1つとれたんですけど・・・」

「その企業の社長の秘書をするなら雇ってもらえるということなんですが決断ができなくて・・・」


私は意味がよくわからなかった。就職が決まったのならいいのではないか?さらに秘書といえば花形なのではないか?何が不満なのか、世の中では仕事につきたくてもつけないというのに贅沢な奴だ


横から店主が声上げる

「はっきり言わないとわからないでしょ。秘書なんて名目だけで要は愛人契約を結べと言われているんでしょ!!」


その場の人間が「ビクっ!!」と驚いた。

すこしながら斎藤が話し始めた。

「愛人になれば時給1000円で秘書として雇ってくれるといわれた。ほかの企業には雇ってすらもらえないし・・・もう決めるしかないのかと思って・・・」

とまた泣き始めた。鬱陶しい。


見かねた店主から「神野さんどうにかならないかい?」

はっきりという、そんな企業と関わりたくもないし、面倒事も勘弁してほしい。

私にできることなどたかが知れている。そんな私を見て山田が「どうにかならないですかね?」と


ダメもとであるが、斎藤に向けて資格の有無などを聞くと「歯科技工士」の資格取得のために専門に通っているようで受験資格はあるようだった。なぜ、斎藤が歯科技工士以外の道に進もうと思ったのかは正直興味はなかったが、どこも歯科技工士の募集がないということであったから一般企業への就職活動を始めたということであった。


歯科で事務長を務める吉岡に連絡をすることにした。

もう21時30分を回るころだが、彼のことだ。まだ職場にいるに違いない。

「神野か?悪いが、請求の資料の整理で飲みには行けないぞ。」と要件も伝えていないのに断れてしまった。

歯科技工士の募集がないのか聞いてると、「足りなくて困っているぐらいだよ」という返事まであった。


「現在、歯科技工士志望の子が就職が決まらなくて困っているみたいなんだが、吉岡のところで面接だけでもしてもらえないか」と困ったように尋ねると、

吉岡からは「来年度の新卒の募集はちょうど締め切ってしまって、既卒の受け入れ態勢になってしまっているんだ。新卒を入れると育てるための人員も必要になるしすぐには無理だが、再来年度就職のための面接とかなら全然大丈夫だ」という返事を私は斎藤に伝えた。

山田も喜んでいるように見え、店主から斎藤に「絶対に愛人契約なんてするんじゃないよ!!」という活を入れられていた。斎藤は「はい」と答え、少し笑顔が戻ったように見える。


さて、問題は解決していない。再来年の就職に向けてはめんせつをすることができるようになった。来年からの1年間をどうするかだ。そこまで面倒を見てやる必要があるのだろうかと、私ができることはもうないと割り切ろうとしたとき、閃いてしまった。

このことを社内に広げ、私の社内の評価をさらに上げることができないだろうか・・・


そのためには

「もしよければ、来年1年間だけわが社の食堂では働きませんか?外部委託ではないので、嘱託扱いとなるので福利厚生やボーナスも出ますよ。ちょうど、この部下の山田から相談を受けていたんです。食堂の人手が足りないと」

私の提案に、店主や山田からも後押しがあり、斎藤も首を縦に振った。


私が仲介することで食堂に嘱託として配属されることとなった。

今回の話を山田と新たに配属される斎藤から社内に広がれば経営幹部陣の耳にも入り覚えがいいだろう。









それから数か月がたち、私も出世し翌年の4月東京本社への異動が決まった。

元の私のポストには飯本を置くこととなった。比較してさらに私の評価があがるだろう。


山田はプロジェクトリーダーとして頑張っているように見える。飯本が出世したおかげで嫌がらせもなくなったようだが、飯本のミスのとばっちりが積み重なるようだ。


齋藤は食堂の業務にも慣れ、休日には歯科技工士の研修にもいっているらしい。








私の毎日は変わらず、朝起きて、出社して、スーパーの半額弁当や総菜パンを食べて寝る生活を続けていた。そんな私の月に一度の楽しみは部下を引き連れていくキャバクラだ。一人の時にはソープに赴く。

今月は久々に一人ソープにいくことにした。ここでの生活もあと数か月、この退屈な生活からも解放されると思えば耐えられる。

嬢を紹介するパネルなど役には立たないので、指名をせずに天に運を任せる。これも風俗の醍醐味だと私は思ったりする。

案内されそこにいた女性は知った顔ある。まさかの斎藤だった。

私も驚いたが、斎藤も驚いているようだったが、お互いに何も話さず、お互いに得などない、プロと客の関係だ。


こんな仕事をするぐらいなら私の努力は何だったのかという憤りはあるが、知り合いの若い女性を抱けるという背徳感はそんな憤りを吹き飛ばした。

私は彼女がなぜこのような職場にいるのかも知らなければ興味もない。ただ、異動までの数か月間楽しくなりそうだとしばらく感じなかった高揚感を感じた。






あれから何年たっただろうか

山田夫婦からの年賀状であの頃のことを思い出した。山田と斎藤が結婚したようだ。

齋藤が「副業」していることを知っているのはおそらく私だけだろう。


改めていうが、この話の主役は「私」ではない

これは彼と彼女の出会いの物語だ。


久しぶりに「山田」に会いに行くのは面白そうだ。


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