4. そんな!まさか…
私が「転生」ということを理解すると共に、白い空間はなくなり、目の前は暗くなった。そして、マーガレット・カーマインの記憶が流れ込んでくる。8年間分の記憶が入ってくるのだ。混乱したり頭痛がしてもおかしくないが、不思議なことにそれらの症状は何もなかった。
(なんて言うか、収まるとこに収まったみたいな?今はまだ私の方が強いけど、喧嘩しない程度にマーガレットちゃんの人格もあるみたいだし。ちょっとだけ、貴族っぽい思考も入ってきた気がする。)
気がする、という所は重要である。本当かどうかはわからないのだから。
なんにせよ、まだ起きることはできないらしい。自分の意思で起きれないというのはどんな状況なのか。
(起きれないってことさえわかってれば十分だよね。どうせ考えてもわかんないんだし。)
疑問ができても、わからないことはわからないと割り切るのが私流。ということで、どうせ起きれないなら、と私は今の状況を整理することにした。
おそらく、というかほぼ100%、私はこのマーガレット・カーマインに転生した。そこまではまだいい。問題は別のところにある。彼女は、マーガレット・カーマインは、乙女ゲームの悪役令嬢なのである。
(嘘でしょ…。私、悪役令嬢に転生しちゃったんだ…。)
今更ながらに実感が湧いてくる。しかも、マーガレット・カーマインはただの悪役令嬢ではない。前世、私が読んだ数ある悪役令嬢転生物でも、特にお気に入りだった『悪役令嬢に転生しましたが、とりあえず破滅は嫌なので全力で破滅フラグを折りまくりますっ!』の主人公なのである。
ここまできたらお気づきだろうか。そう、私は乙女ゲームの悪役令嬢であり、そのゲームを舞台とした転生物のラノベのヒロインに転生したのである。
(そんな!まさか…、お気に入りのラノベに転生しちゃうなんて…。めっちゃ楽しいじゃん!!)
動揺ということを知らないのだろうか。
(だけどなんか、この転生ややこしいなぁ…。とりあえず、そのラノベについても整理しとくか。)
幸いにも、お気に入りだったため何周かしている。大体の流れは覚えているはず…だ。少なくとも、推しは覚えている。
この話は、簡単に言うと、よくあるアラサー社畜がハマっていた乙ゲーの悪役令嬢に転生して色々あってヒロイン的立場になるやつである。
破滅フラグを折るのに必死になっているうちに乙女ゲームの攻略対象から恋情を寄せられるも、転生したアラサー社畜は恋愛偏差値ゼロ。それに気づけないのである。
(さすがに私ならわかるでしょ。だって、現役女子高生だったんだよ?現役なのに過去形って変な感じだけど。それに、大量にラノベを読んできたわけだし?わかって当然だよね!)
自身の恋愛について全く考えなかったことから彼女の恋愛経験は推して測るべしである。ちなみに、その恋愛偏差値ゼロのアラサー社畜の名前は生田椿だ。
(でも、まず考えておくべきことはこれから私に関わるイベントについて、かな。)
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