3.これが噂の…
よく分からない真っ白な空間で、私は自分と向き合っていた。自分の心と向き合っている訳ではない。目の前に、私が、いるのである。
(よく分からない真っ白な空間。目の前に自分。なに、これ?異世界転生みたい。よくあるじゃん?白い空間で記憶を云々的な。)
私の趣味は読書で、スマホを手に入れる前までは紙媒体の本を読んでいたが、手に入れてからは小説投稿サイトで色々なジャンルの小説を読み漁っていた。今まで、数え切れないほどのラノベを読んできたが、中でもお気に入りのジャンルは悪役令嬢転生だった。
(で、あるあるだったのが、何らかのきっかけで意識を失ってどっか別次元風なところにきてお話するっていうシュチュエーションだった…って、ん?今の状況と丸かぶりでは?いや、でもここで神様的な人が出てくるのも定番だし、今のところいない!から違う…よね?)
だが、自分の名前を思い出したら意識を失い、別次元風な真っ白な空間にきて、自分と向き合っている。ここで話をしたら神様という条件以外は完璧である。と、そこへ知らない誰かがやってきた。…というより、現れたと言った方が正確である。
(ひえ、美少女!!!)
腰まで届く、緩いウェーブのかかった金髪。夕焼けの赤い空のような茜色の瞳。透き通った肌。その姿は、さながら女神のようであった。見た目は小学一年生前後のようだが。
(あ、これ神様パターンか。でもちょっと幼くない?ま、神様は成長速度が遅いかもだしね。)
「あなたは、誰?」
先程の女神様(仮)が言う。幼さを残しつつも、凛とした、美しい声だ。こんな状況でなければ思わず聞き惚れてしまっただろうと思うほどに。
私は、それに答えようと口を開いた。が、声が出ない。すると、目の前にいる「私」が答えた。
「私は、霞桜はな。階段から落ちて死にました。」
(はい!?私、死んでるの!?)
まさかの情報に驚愕する。そしてその間にも、二人の会話は続いていく。聞き漏らさないようにしないと、と私は耳を傾けた。
その話を要約すると、こうだ。
私は、いつも通り学校に遅刻しそうになり、急いで階段を駆け下りていた。その途中、足を踏み外してしまい、階段から落ちた。普通なら助かるのだが、この時は打ちどころが悪く、死んでしまったらしい。
この話を聞くと同時に、私は今までの事を全て思い出した。家族のこと、友達のこと。学校のこと、勉強のこと。趣味、好きだった人、その他色々。この状況に陥るまでに思い出せていた前世(仮)のことはほんの一部だったらしい。
そして、女神(仮)の話はこうだった。
彼女の名前は、マーガレット・カーマインで、カーマイン公爵家の一人娘。女神様ではなかったらしい。家族構成は、母一人、父一人、兄一人。8歳らしい。そして、神様でもないらしい。
私は、この話を聞くと同時にあることを理解した。
(これが、噂の、転生ってやつか。)
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