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14.新しい目標

 その晩、ウィリアムとアイリスは、ウィリアムの書斎で話をしていた。


「貴方、殿下との縁談はどうなりましたか?」

「あぁ、それならお断りしたよ。メグが嫌だと言うのでな。」


 その言葉にアイリスは驚く。


「あの子なら、受けると思っていたのに…。」


 公爵令嬢として相応しいように、と育ててきたのだ。賢いマーガレットならば、家のためにはこの話を受ける事が最善だと分かると思っていた。


 ウィリアムは、妻の呟きからその思いを正しく理解した。その上で、笑って言う。


「大丈夫。マーガレットは、貴族令嬢として何が正しい行動なのかは分かっていたよ。それを理解していて、こう言ったんだ。」


――私たちように、幸せな家庭を築きたい。


「実際に交流し、その人となりを自分の目で確かめたい。そして、共にありたいと思う人と結婚したい。こう言われてしまっては、父親としてその思いを否定する訳には行かないだろう?」


 それを聞いたアイリスは、微笑んだ。


「わたくしたちのようになりたい、ですか。親としてこれほど嬉しいことはないでしょう。にしても、あの子が自分のしたい事を主張してくるとは、珍しいですわね。」


 そして、苦笑しつつ言う。


「実は、公爵令嬢として恥ずかしくないように、と言いすぎて自分の事が後回しになっているのではないかと心配だったのです。」


 その話を聞くと、ウィリアムは自分だけではなかったのか、と内心ホッとした。


「この際だから言ってしまうが、実は私も心配だったんだよ。だから、メグが自分のしたいことを主張してくれて少し安心したんだ。」


 でも。

 そう言うと、ウィリアムはマーガレットとの会話を思い出すかのように一度目を閉じる。

 そして目を開けると、こう続けた。


「さっきのやり取りは、八歳児とのものとは思えなかったよ。あまりにも、しっかりしすぎていた。…いつの間に、あんなに成長してしまったのだろうか。」


 可愛い娘の、幼く天真爛漫な姿を見れた期間はあまりに少なすぎた。そんな思いが言葉と共に外に出される。


 夫の切なげな言葉と表情を見たアイリスは、何も返すことができなかった。


 そして、そんな二人のやり取りをドアの外でこっそり聞いていた者がいた。


***


 私は、部屋のベッドで悩んでいた。


(やっぱり、昼間のお父様とのやり取りはちょっとやりすぎてたよね。)


 正直、自分でも八歳児らしくない言動をしたという自覚はあった。だが、日本では高校生だったのだ。あれが普通だった。

 それに、マーガレットの持つ令嬢フィルターの性能が良すぎた。

 これでは、頭脳が高校生のお嬢様ができあがってもおかしくない。ただし、見た目は子ども。あまりにも似合わない。


 両親を不安にさせてしまったのも申し訳ない。では、どうすべきか。それに悩んでいたのだ。


 そもそも、鉄壁の令嬢フィルターはとても便利だった。はなとしての言動が全く出ないのだ。貴族の常識と外れたことをしてしまう心配もなかった。


 だが、そのフィルターがあるせいで表情すらも令嬢として正しいものしかできなくなっていた。

 勿論、笑うことはできる。ただ、心の底からの笑顔が出せない。

 これでは、八歳児らしさなど微塵もない。


(まずは、感情を表に出せるようにする所から、かな。)


 ふとした瞬間に、自然な笑みが出せるように。


 完璧な笑みばかりでは、近寄り難いにも程がある。友人を作るためにもこれは欠かせない。


 ただ、そこで注意すべき事がある。鉄壁令嬢フィルターがなくならないようにする事だ。これが無くなってしまったら、何も出来なくなってしまう。


 目指すは、完璧だけどちゃんと年相応の表情もできる女の子、である。


 今後の方針さえ決まれば、あとはその目標に向かって努力あるのみだ。


(友人確保、親を安心させる為にも、頑張るぞー!)


 私はこの日、新しい目標ができ、昼間のことはすっかり頭の隅へと追いやられてしまったのだった。

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