13.王子との縁談
「お前に、王子との縁談がきている。」
私が部屋に入ると、父はそう切り出した。
正直、予想していた事だったのでそこまで衝撃は大きくない。強いて言うならば、思ったよりも行動が早かった、と言うぐらいか。
判定されたのは、約三時間前だ。それから打診してくるとは、考えられないほど早い。何としてでも私を手に入れたいという思いがひしひしと伝わってくる。
まぁ、私からしてみればそんなことは知ったこっちゃない感じなのだが。
「どちらの王子でしょうか?」
第一王子か、第二王子か。それによって今後の人生は大きく変わると言っても過言ではない。
第一王子ならば、将来の王妃とならなくてはいけない。そして、そのためには厳しいと評判の王妃教育を受けなくてはならない。
王子と結婚するには、それ相応の努力が求められるのだ。
「第一王子だ。」
父はそう言った。
当たり前だ。この国に二人といない四つの属性持ちである。第一王子との婚姻が妥当だろう。
「そうですか。もし、わたくしが断りたいと言ったらお父様はどうなさりますか?」
父は少し、驚いた表情をした。しかし、直ぐにこう言った。
「お前が、本当にそれを望むのなら。勿論、私を納得させられればの話だが。」
予想していた答えではある。王族からの誘いだ。簡単には断れない。最後の条件付けは必要なものだろう。
だが、それでも私が本気で望めばそれを叶えてくれるだろうという信頼は確かにあった。
「わたくしは、今はたとえ王子であったとしてもそのような事は考えられません。」
私には、譲れないものがあるのだ。
「どうして、たった一度拝見したことがあるだけのお方との結婚を考えられましょうか。話したことすらないのです。人となりすらも知りません。せめて、どんなお方かを自分の目で判断したいのです。」
ここまでは、自分の我儘だと取られても仕方ない理由でしかない。ここからどう話をしていくべきか。
(考えろ、私!)
そして私はまた口を開いた。
「そして判断した結果、わたくしとは合わない方かもしれません。となれば、その婚姻は家の利益の為だけのものとなってしまいます。…家の利益を考え、結婚することが貴族の令嬢として求められる事だということは存じ上げております。わたくしの考えが、その責務を果たそうとしていない、と取られても仕方ない事も、重々承知しております。ですが、」
私は、父の目を真っ直ぐ見て言った。
「わたくしは、お父様やお母様のように、幸せな家庭を築きたいのです。」
両親の仲の良さを見て育った私にとって、幸せな家庭を築くことは一つの目標だった。
前世では、恋愛の一つもせずに死んでしまった。今世こそは恋愛がしてみたい、というのもある。
私の思いが伝わったかどうか。父は表情を全く動かさない。
この待ち時間が、実際の何倍にも思えてくる。
そして、父は、笑った。
「そうか。私たちみたいになりたい、か。すまない、王子との縁談だ。きっと喜ぶと思っていた。だが、そうだな。話してみなければ分からぬことも多い。学園に入ってからでも遅くはないだろう。お前が、幸せになれると思う人と結婚しなさい。この縁談は、私から断っておくよ。」
「ありがとうございます、お父様。」
私は、満面の笑みで言う。
両親のようになりたいのも本当だが、正直王妃になって日々プレッシャーに晒されるなど全力でお断りしたかったのだ。
(にしても、良い父親だな。)
私は、貴族として当たり前のことをしたくないと言ったにも等しい。にも関わらず、私の希望を叶えてくれるのだ。良い父親と言わずしてなんと言おう。
すると、父がこう言った。
「もし、お前が本気で共に人生を歩みたいと思う相手ができたら、その時はすぐに言いなさい。王子でも、神でも構わない。少々話し合いはするが、お前の希望は全力で叶える。」
良い父親、なのは確かだが。神とは。多少、いや、だいぶ溺愛要素が高めなのは否定できない。
それに、話し合いとは何なのか。文字通りだとは思いずらい雰囲気だ。怪我の無い程度にしてもらいたいところである。
「勿論、そうさせていただきますわ。ですが、程々になさってくださいませ。」
私にはそう返すのが精一杯だった。




