プロローグ
初投稿やったぜ!
趣味の不定期更新ですが良ければお付き合いください。
登下校は運動に含まれるのだろうか。
秋特有の日差しが弱々しく降り注ぎ、木枯しに変わろうとする風の吹く中、俺はくだらないことを考えながら登校していた。
眠い時は軽い運動するといいと聞いたことある。
俺、大神 大河は「登校」という行動により頭が冴えるという実体験から登下校は運動であると結論を出した。
もし仮に「何かスポーツなどはされてますか?」と尋ねられる事があれば、迷いなく「一応、毎日登下校を嗜む程度に」と答えるだろう。
登下校以外に運動をすることなく、かと言って創作活動に精を出すこともしていないが、俺は決して帰宅部ではない。デジタルゲーム愛好会という熱血系の生徒が幽霊部員してる素敵な部活に所属している。
そう、部活に懸命に取り組む青春真っ盛りな学生生活を過ごしているのだ。
校門をくぐり、昇降口へと向かう。昇降口までの十数メートルですら億劫に感じるがそれも仕方のない事。いや、特筆するような理由があるわけでは無いけど仕方ないことだろう。
そんな堕落しきった思考を頭の中に這わせていると、バシンという荒々しい音とともに背中を凄まじい衝撃が貫いた。
「おはよう大河!今日はいつにも増してぼんやりしてるな!!!」
振り返るとそこにはガハハと大口開けて豪快に笑っているがっしりした体型の大男がいた。彼は幼なじみの竹田 晴哉だ。
体育会系ですが何か?と言わんばかりの短髪のツンツンヘアーにがっしりとした筋肉質のガタイ。これほど見た目通りという言葉が似合うものがいないほどのスポーツマンで太い眉毛は九州男児という言葉をイメージさせる。
先程俺の背中を突き抜けたえげつない衝撃も、彼にとっては背中をぽんっとしたくらいの感覚なのだろう。
加減を知らないのか?この怪力馬鹿。
「で、大河、何考えてたんだ?」
「特に。強いて言うなら登下校が運動に入るかどうか」
「入らんぞ」
一刀両断ですね。いやまあ、趣味で運動部の助っ人やってるやつにとって登下校なんて運動に入らんだろうよ。
「だが、走って来るとかならそれは立派な運動だ!誇っていいぞ!」
いや、誇るも何も走ってきてないです。
こいつは何も考えずに話しているんだろうなぁ…。
俺たちは校舎に入っていく他の生徒に混ざり、昇降口で靴を履き替え教室へと向かった。
教室へと向かう途中、晴哉がいろんな生徒たちに呼び止められていたがそれもいつものこと。そりゃ度々いろんな運動部の助っ人やってりゃ顔も広くなるわな。
晴哉と他愛無い会話をしつつ教室の扉を開く。と眼前にめっちゃメンチ切ってるゴリッゴリのヤンキーがいた。
めっちゃびびった。声こそあげなかったが内心心臓ばくばくである。
絵に描いたようなゴリッゴリのヤンキーが見た目も実際も貧弱貧弱ゥ!な俺にガンくれている様子は側から見ると間違いなく弱肉強食な世界のそれだろう。
短めの金髪に全剃りの眉と、いかにもな人相の悪さでガンくれてるのは萩原圭。
気性は荒いが見た目ほど尖っているわけでもない不思議な男である。あと非常に友人思いのいいやつでもある。が見た目は完全にヤンキーのそれである。
「…なぁ…。約束のモノ持ってきてっか?」
そーゆー物言いやめてくんねぇ?完全に見た目それになるじゃん。先生には見えないようなところでやられるそれじゃん。
「持ってきてるって。ほらよ、『我々は勉学が不得手』の飛龍先生のクリアファイル。
…2つでよかったよな?」
カバンからクリアファイルを取り出し萩原へと差し出す。デジタルゲーム愛好会の活動で他の学校と活動を共にした時に手に入れた品だ。
「おめーよぉ…神か?」
「普段使い用と保存兼鑑賞用だろ?本当は3つあればよかったんだが…すまんな」
「十分だ、心の友よ」
某国民的ガキ大将のような言葉を吐きつつクリアファイルを抱きしめるように胸に押し付けているヤンキー。
知らない人が見ると異常なほどに情報量が多い光景だろう。
信じられないかもしれないが彼は不良と呼ばれる存在だ。
服装検査では毎回引っかかってるような男だ。
体育以外の授業は張り切らないタイプの人間だ。
そしてクラスのオタク男子がこっちサイドに引きずり込んでしまった被害者だ。
世の中のカオスを詰め込んだような状況に対し教室の奥から叱咤のような声が飛んできた。
「おい圭、オメーそんなナヨナヨしたもんが好きなのかよ。」
教室の奥、窓際の一番後ろからこちらに近づいてくるのは緒方翔平。
ワックスで逆立てた赤い髪の毛と着崩した学ランが特徴的な男子生徒だ。整った顔をしているが鋭い目つきと、不満そうに見えるへの字の口と相まって非常に近付き難い雰囲気を出している。
「圭、オメーなぁ…あのマンガは算術のゆずちゃん一択だろうが!
生徒との禁断の恋にビビってナヨナヨしてる奴のどこに魅力を感じてんだ?あ?」
圭の胸倉を荒々しく掴み、どすの利いた声で凄むが内容はラブコメ漫画のキャラについてである。
「いや、流石に翔平くんの意見でもよぉ、ちょっと許せねぇよな。あのマンガは飛龍せんせいなくてなりたたねぇよ」
「本気で言ってんのか?オメーちゃんと物語読んでねーだろ!全ての道はゆずちゃんに通じてんだよ!!」
信じられないかもしれないがヤンキー同士の喧嘩だ。
胸ぐら掴みあって言ってることが推しに対しての愛というなんともなものである。教室内はほっこりに包まれていた。
「翔平くん…ちょっとこれはケリつけねぇとなぁ」
「上等だ。放課後待っとけよ圭」
今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だが、彼らが放課後行うのは喧嘩ではなく対戦アクションゲームだ。クラスみんなが知っている。なんなら彼らの「大乱獲ツナッ取ブラザーズ」の対戦でかけを行う者もいるほどだ。勝率は五分五分。
そんなほっこり推しバトルを尻目に、俺は自分の席へと向かう。
自慢になるが、うちのクラスはすごく仲がいい。男女、オタク、不良、体育会系とそれぞれ色んな要素を持つクラスメイト達だが、お互いがお互いを尊重しながら学生生活を楽しんでいる。
凄く贅沢だと思うがこれがうちのクラスの日常だ。
隣の席の女子が水曜日の朝はニコニコとこちらに視線を送っているのも日常。
「おはよー大河きゅん。小テストの対策ノート貸してくれる?」
朝イチで厚かましくノートを借りようとしてくるのも日常。
この厚かましいのは隣の席の山神 茉莉。
まん丸な大きな瞳に、色素の薄い小さな口。一見小学生に間違われるようなあどけなさと、何も考えてない発言、裏表のなさからクラスのマスコットみたいに扱われている。また動きやすい方がいいからと短く切っている髪、もといおかっぱ頭なのもマスコットっぽくなる要因に思える。勉強はすこぶる苦手であり、特に数学が苦手。
そんな彼女が朝一で毎週声をかけてくるのは小テストの補習を避けるため。
「毎週毎週鬱陶しいな。なんで毎度俺なんだよ」
「だって大河きゅんのノートわかりやすいんだもん。今回で最後にするから対策のーと貸してー。」
でへへ〜と緩んだ笑みを浮かべる童女じみたJKに俺が返すのはいつもの言葉。
「すまないが、数学の対策ノートはあるが算数の対策ノートはないぞ」
「そーそー、八の段が苦手で…って小学生じゃないから!!」
茉莉から鋭いツッコミが飛んでくる。
プンスカと怒り、頬を膨らませている様子は到底高校生に見えない。
「俺のノートありきで考えるのそろそろやめな。今回は借すけど次はかさんぞ。」
カバンから青色の「数学試験対策ノート」を取り出して渡す。俺は決して頭が良くないため、日頃からわかりやすくまとめて頭に入れる事を癖づけている。おかげで成績は悪い方ではない。
対して、目の前でありがたや〜と祈るような動きをしている彼女はすこぶる成績が悪い。非常に残念体質の彼女を見ていると、本当に八の段が苦手なのではないかと心配になる。
「祈ったりしてないでさっさと勉強しな。山神の頭じゃ小テストに間に合わない」
「大河きゅん…キミ、失礼過ぎやしないかい?いくらわたしのこと好きだからってイジワルし過ぎは良くないと思うな」
「失礼云々じゃ無くて事実だからしょうがない。あと、俺は君に恋愛感情を持っていない」
毎週水曜日の恒例のやりとり。茉莉は「ちょっとくらい私にデレてくれてもいいのに〜」と頬を膨らませながらノートを開いて勉強しはじめる。デレてたまるか。キャラが崩れるだろーが。
おそらくこのおなじみのやりとりは、また来週の水曜日もするのだろう。そんな事を考えながらカバンから読みかけの小説を取り出した。
テストの対策は昨日の夜やったし大丈夫だろう。
そこで俺の意識はなくなった。正確には、教室内にいた全員が同じタイミングで意識を失った。
日常が崩れるのはどんな時も突然で理不尽だが、まさか自分の日常が異世界転移で崩れ去ろうとは考えてもいなかった。
小ネタ
・登下校は運動
└ラクロスのマンガより。これを知ってる人は友達になれる。