魔王
全ての欲が叶えられるなら。
神は言った。
「現世において魔王となり、人を滅ぼせ」
と。
だから聖者と呼ばれた男は直ぐ様首肯した。
「主の聖心のままに」
魔王となった彼は、ダンジョンの奥深くに籠り、一つの魔道具を完成させ、自分の一部として取り込んだ。
そしてその日以来、世界から瘴気が消え、魔物は全滅し、世界に平和が戻った。
同時期、ゴライアスの塔と銘打たれた建造物が世界のあちこちに出現した。
人々は恐る恐る調査し、直ぐに歓喜した。
世界中の人々全てに塔を経由して腕輪が交付され、その腕輪からは望みの物が何でも現れたからだ。
酒でも食べ物でも異性でも、何でも現れた。
異性など、一晩過ごせば消えてしまうが、望めばまた直ぐ現れる。
この辺りで人々は堕落し始めた。
そしてその後は早かった。
働かなくなる。
土地が荒れる。
怠惰に染まる。
他人に見向きもしなくなる。
あっという間に社会は崩壊し、諌めようとした者達も、結局腕輪に頼るようになり、学問も技術も失われた。
神は慌てた。
ダンジョンの奥深くで魔王は世界中の瘴気を集め、浄化して魔素に戻し、世界に還元し、腕輪を通じて人々の欲望を叶えているだけだ。
しかし、人々は欲望に染まりきり、怠惰に嵌まり、もう既に滅亡寸前である。
神託を下そうとしても聞くものがいない。
勇者を目覚めさせたくても現在の人類に素質がない。
勇者を生み出そうとしても、結婚すら過去の遺物になってしまった。もちろん人類同士での子作りなど絶えて久しい。
勇者召喚など論外。やる気のなくなった人類が、勇者召喚などやるはずがない。
腕輪が全ての欲を叶えてしまうのだ。
そして、怠惰の瘴気は再び魔王の元に集まり、魔素に戻る。
魔王がダンジョンに籠って二百年。
長命種の最後の一人が腹上死して人類は滅亡した。
魔王は既に魔王ではなくなっていた。
神ですら不可能だった瘴気の完全浄化を二百年し続け、上位存在より神に引き上げられていた。
「主よ、私はやり遂げました」
誇らしげな元魔王、今は同僚に、主と呼ばれた彼はこう言うしかなかった。
「お、おう」
知識欲なんていの一番に死が。ネクロノ何とかとか真っ先に読んで自滅しますわ。