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勇者「娘さんを僕をください」  作者: 筆我尾曾井
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第007話「ゴブさんは昔、多くの人間を村へと連れて行ったゴブリンです」

 罰として三日間働くことになった四人。

 その二日目。

「おはよう。生きているか?」

「……何とか生きてるみたい」

「私も」

「俺も」

 四人は開口一番、ゴブによる天罰が下っていないかの確認をした。

 だが、油断はしては行けないと作業着に着替えつつ、天井を見たり、窓を開けたりする四人だが、それでも天罰は下らず、束の間の安堵の溜息を零す。


「皆さん、おはようございます。

 さあ、今日も元気に……って、皆さん、何か強張っていますけど朝から何かあったんですか?」

「ご、ゴブさん!! ちょうど良かった。

 一つ聞きたいことがあるんですが、良いですか?」

「はあ、別に良いですけど」

 そうして、四人はゴブが持ってきた朝食を頂きながら、天罰について聞いた。


「そう言うわけで、昨日は大丈夫だったんですけど、俺たちに天罰は……」

「なるほど、そう言うことでしたか。

 すみません。説明するの忘れていました。

 確かに先日の皆さんの行動は私の特殊称号(ユニークスキル)に抵触する内容でした。

 しかし、私の特殊称号(ユニークスキル)は正確には失礼を働いていても()()()()()()()()に謝るか、どんな罰を受けるかが決まっていれば、天罰は行われないんです。

 そして、皆さんは天罰が下る前にどんな罰が下るか決まったので、天罰はくだらなかったんです」


「な、なるほど。それは良かったです」

「あ、でもあくまで贖罪をしているから受けていないだけで、逃げたりすると罰を受けないと言う判定になってすぐに天罰が下るので注意してくださいね」

「「「「承知いたしました。ゴブ様。死にたくないので絶対に逃げません」」」」

「ゴブ様って、大袈裟な。

 まあでも、もちろん体調不良や何か緊急の用事が出来たら遠慮なく言ってくださいね。

 言ってさえ下されば天罰も下らずに帰れるので」

「はい、分かりました」

「お気遣い感謝します」


「さてと、朝食も食べ終えたことですし、それでは皆さん今日も一日頑張りましょう」

「「「「承知いたしました」」」」

 元気に返事をした四人はそのまま各自の仕事場へと向かうのだった。


「おはよう。二人とも今日もよろしくね」

「はい、スラさん、ライさんよろしくお願いします」

「イムさん、ムズさんよろしくお願いします」

 そして、四匹のスライムに頭を軽く下げた男二人は、昨日と同じくスライムを使って廊下を拭き始めた。


「はい、それじゃあ。今日はこれくらいで大丈夫だよ」

「お疲れ様。まだ二日目なのに、僕たちをもう使いこなせてるね。良いね」

「明日もこの調子でお願いね」

「次の作業についてだけどゴブさんに聞いてね」

「「「「それじゃあ、お疲れ様でした」」」」

「はい、お疲れ様でした」

「ありがとうございます。お疲れ様でした」

 そう言って、飛び跳ねるように去っていくスライムに頭を下げる二人だった。


「さてと、ゴブさんに次の作業を聞けって言われたけど……」

「ゴブさん居ないな。何処行ったんだ?」

 スライムたちから別れて十数分。

 ゴブを探した二人だが、見つからず旅館の中を右往左往していた。

 そんな時――――


「あれ? 二人ともどうしたの?

 仕事は?」

 ちょうど別の作業をしていたのであろう女二人とばったりと出くわした。


「いや、仕事は終わって、次の作業を貰おうとゴブさんを探してたんだけど見つからなくて」

「ああ、なるほど。

 ゴブさんなら、確か……」

「裏口の洞窟に行くって言ってたわよ」

「裏口の洞窟?

 そんなところあったんだ」

「私たちも行ったこと無いからあるかどうかは分からないけど、お昼と夜の15分間、毎日ゴブさん言っているって聞いたわよ」

「そうか。

 分かった。それじゃあ、そこに行ってみる」

「分かったわ。

 もしゴブさんが来てたら二人が探してたことと、裏口の洞窟に行ったことを伝えておくね」

「おう、分かった。

 ありがとうな。二人とも」

 そう言って、女子と別れた二人は裏口の洞窟へと向かっていった。


 そして、裏口へとたどり着き、数分歩いた二人は、大きな洞窟の入り口を前に停止した。

「ここが二人の言ってた洞窟か?」

「確かに見た目は洞窟だけど……なんて言えばいいんだ?」

「不浄な塊と言うか……怨念の巣窟と言うか」

「「明らかに呪われているだろ」」

 二人同時に同じことを思うほど、そこは空気はおろか近くの草木すら枯れて、穢れ切っていた。

 もちろん、マイナスな感情や怨霊が居ることによって生まれる所謂穢れと言われている場所は人体だけではなく周囲に悪影響を及ぼす現象は珍しくないし、勇者の卵として数々の経験を踏んだ二人もこの手のものは経験したことはある。

 しかし、この場所は二人が経験したどの場所よりも穢れており、二人でも近づくことを憚れるほどであった。


「こんな場所にゴブさんが?」

「いやいや、この中に単身で入るなんてあり得ないだろ」

「いや、でもここにゴブさん行ったって言ったんだろ?

 じゃあ、普通に考えて……」

「だとしても、俺は少なくともここには入りたくないよ」

「……だよな」

 などと、話しながら、入るか入らないかを言っていると……


「あれ? お二人さん。お疲れ様です。どうしたんですか? こんなところで」

 暗い洞窟の中から松明を持ったゴブさんが平然と現れた。


「いや、どうしたもこうしたもゴブさん、大丈夫だったんですか?」

「大丈夫? って、ああ、この洞窟のことですか?

 大丈夫ですよ。私は入っても問題ないので」

 ただ、皆さんにはちょっと悪影響かもしれないですけどと、朗らかに笑いながらゴブは二人にこの場所から離れるように合図する。

 そんなゴブの言動に小さく頷いた二人はそのまま洞窟を離れ、休憩室へとゴブと一緒に戻ったのだった。


「さてと、それじゃあ。例の洞窟の件ですが、見つかってしまったことですし、聞きたいことがあるのなら答えますので遠慮なく言ってください」

「それじゃあ、まずは……あの……例の洞窟ですが、あれ穢れですよね」

「はい、そうです。恐らく、大国でも五本指に入る穢れですね」

 二人の言葉にほぼ即答で平然と返すゴブ。

 しかし、そんなゴブとは正反対に二人は思わず唾をのみ込んだ。

 何故なら、大国の中で五本指に入る穢れと言うのは何処も周囲はどれだけ制御しても息をするだけで即死の阿鼻叫喚の地獄になっているのが大半だからだ。

 そのレベルの穢れが、この村。それも人が多くいるこの旅館の近くにあると言うのは危険と言うレベルをはるかに超えている。

 それこそ、今すぐにでも大陸のトップクラスの聖職者と、封印師を呼ぶレベルだ。


「ですけど、今は被害は何とか食い止めていますし、少なくとも私かユウさんが生きている間は何も無いですよ。

 もちろん、生きている間にあの穢れは何とかしたいですけどね」

 冗談ぽく笑うゴブ。しかし、その顔には少しだけ悲しみの色があった。


「そ、そうなんですか。

 因みに……何があったか聞いても良いですか?」

「…………」

「あ、もちろん。ゴブさんが辛いなら話さなくても良いですけど」

「お気遣い、ありがとうございます。

 ですけど……そうですね。

 これ以上、私たちのような悲劇を起こさないためにも、この村で何があったのかお伝えします」

 そう言って、ゴブは少しずつ過去のことについて話し始めたのだった。


 昔、森に囲まれた小さな廃村のその更に奥に、一つのゴブリンたちの巣とも言える洞窟がありました。

 もちろん、通常であれば、ゴブリンと言えば強奪や凌辱を行う小鬼の一種であり、言ってしまえば退治されるべきモンスターです。

 しかし、そこに住んでいたゴブリンは、通常のゴブリンとは違いました。

 小さな廃村と言うことに加え、人が全く寄り付かない森の更に奥と言う立地だったからでしょう。


 凌辱することはおろか、奪うことすら困難なこの環境の中、生きるためにそこに住んでいたゴブリンは田畑を育て、仲間と一緒にウサギなどの小動物を狩るという、ゴブリンとは正反対の生活を始めました。

 もちろん、中にはその生活に合わないと言うゴブリンも居ました。

 しかし、協力しなければ生きていけない生活の中で、多くのゴブリンが互いに協力しようと説得し、衝突はしながらも皆が互いに手を取り合って生きてきました。


 そんなある日、洞窟の近くに迷い込んだ一人の男性が現れました。

 その人は体中怪我をしており、満足に歩くことすら出来ませんでした。

 もちろん、中には殺して食料にすると言う案もありました。

 しかし、もし自分が同じ立場になったらどっちが嬉しいかという一匹のゴブリンの子供の言葉で、洞窟のゴブリンたちは全員で彼を介抱することにしました。

 その甲斐あってか、彼は順調に回復し、完治した彼は私たちに礼を言いながら去っていきました。


 しかし、その日を皮切りに、洞窟の近くで多くの怪我人が現れるようになりました。

 もちろん、中には助けられない人も居ましたが、助けることのできた人たちの姿を思い出して、私たちはその人を食べることなく土葬しました。


 一人、また一人と、次々現れていく人に私たちは戸惑いましたが、ある日、私たちが介抱した彼が大量の食料と酒と運んで一人、遊びに来てくれました。

 もちろん、私たちは全員、手を振って彼が来たのを喜び、洞窟内で宴をしました。

 宴は一日では終わらず、二日、三日と続き、大量に送ってくれた食料と酒は五日を待たずに使い切るほど賑わいました。


 そして、四日目の夜。

 彼は、またいつか来ますと言って、多くのゴブリンの子供たちに見送られながら帰りました。


 その後も彼は定期的に食料と酒を持っては来ては、宴をして食料が無くなったらまた帰ると有効的な関係を築いていました。

 それこそ、人とゴブリンが共生できるのはないかと思えるほど。

 しかし、そんな私たちの願いはある日、突然砕かれました。


 ある日、いつも通り宴を楽しみ、酒の酔いもあって、眠っていた私たちでしたが、突然の子ゴブリンたちの叫び声と消えた彼の姿に目を覚ましました。

 するとそこには、大男に抱えられている彼と、背中を掻いている子ゴブリンと、そして洞窟の入り口で杖を構えている一人の女性が居ました。


 そして、その杖を構えている女性が声をあげた瞬間。

 一匹のゴブリンの背中から炎が出てきました。

 急いでゴブリンの炎を消そうとする私たちでしたが、その瞬間に彼らは油の入った壺を洞窟の中にばらまきました。


 一瞬で連鎖するように洞窟の中は火で満たされ、生き延びようと私たちは洞窟を目指して走りました。

 しかし、洞窟へ出た私たちへ向けて、女騎士は汚らわしいと言って次々と斬っていき、大男は良くも自分たちの仲間を洗脳したなと言って洞窟へ出た私たちを棍棒で殴り、再び洞窟の中へと入れました。


 もちろん、彼は仲間であろう彼らへ向けて止めろと言いました。

 しかし、洗脳されている。可哀想に。俺たちが来たから安心しろと、その言葉を一切耳にせずそれどころか、更に怒りを増して私たちを攻撃し、それは洞窟の中の火が完全に消えるまで続きました。


「そして、その日を皮切りに、あそこは穢れとなって、唯一運よく生き残れた私と、そして私たちに良くしてくれた彼だけが、あそこの怨念を沈めることが出来、あれ以降私と、ユウさんが交代であそこの穢れを沈めているのです。

 これが、あそこが穢れとなった経緯です」

 はい、これでお終いですと冗談ぽく言うゴブ。

 しかし、その顔は何処か悲しそうだったが、二人はそれ以上に気になることが出来ていた。


「……あの一つ。聞いていいですか?」

「はい、何でしょうか?」

「さっきの話を聞く限り、その良くしてくれた人って、あの禁句(勇者)のユウさんですよね?

 と言うことは、その三人ってもしかして……」

「拒否権を行使します」

 そう言って、茶をすすりながらそっぽを向くゴブ。

 しかし、その瞳は普段見せていないほどの怒りがこみあげており、湯飲みすら壊しかねないほどの圧力を込めると言うその様相から、答えを暗に伝えていた。


「……あの、本当にすみませんでした」

「……すみませんでした」

「い、いえ、こっちこそ。お二人には関係ないのに、変な態度を取ってしまってすみません。

 お二人とも顔をあげてください」

 そう言って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に頭を下げる二人。

 そんな二人へ向けて気にしないでと言うかのように、普段の和らげな表情に戻るゴブ。


「まあ、と言うわけであの穢れには私とユウさん以外が入ると危ないので残り二日間ですが、気を付けてくださいね」

「「はい、分かりました」」

 そう言って、気分を変えるかのように元気に返事をする二人に、ゴブは満足げに頷き、それでは仕事を再開しましょうと言い、立ち上がるのだった。



………………

…………

……

 そして、そんな二人がゴブの()()()()()()()()()()()()()()()()()()数時間後。


「お、親方。そ、空から雷と一緒に、ワイバーンの大群が二人の頭上に――――」

「や、やばい。こいつら息していないぞ」

「え、衛生兵を!!」

「メディック! メディーック!!!!」

 過去最級の天罰が二人の頭上へと下ったのだった。

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