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勇者「娘さんを僕をください」  作者: 筆我尾曾井
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第005話「ここはクレーマーは生きられない村です」

「と言うことで、この村の説明は以上です。

 何か質問はありますか?」

「特には無いですけど……すみません。勇者のことが頭から離れなくて殆ど何も覚えていないです」

「同じく。尊敬していた人だったので、なおさらダメージがキツイ」

 地面にへたり込む四人。

 その顔には覇気がなく、夢も希望もぶち壊された顔をしていた。

 そんな四人の姿を見ながらはあとゴブは溜息を吐く。


「まあ、皆さんのお気持ちは分かりますけど。

 ですが、旅館から戻ったらそんなこと許しませんので、それまでの間にモチベーションを戻してください」

「はい、分かりました」

「善処します」

 そう言って、四人と一匹のゴブリンは旅館へと戻るのだった。


「それでは皆さん。

 準備も出来たところで、これから三日間よろしくお願いします」

「「「「よろしくお願いいたします」」」」

 旅館に着き、普段着から作務衣に着替えた四人はゴブへ向けて深く頭を下げた。


「元気の良い声で大変よろしい。

 それでは早速仕事を割り振りますが、男性の方はまず床掃除。

 女性の方はお客様が使った食器を洗ってください」

「「「「承知いたしました」」」」

 こうして、四人の旅館での罪滅ぼしの三日間が始まったのだった。


 そして、ゴブに連れられて行った女性二人と別れた男二人は、指定された場所へと向かう。

 すると、そこには毛糸玉くらいの大きさの四つの丸い塊があり、二人を見つけるや否や、四つの塊が二人へと近づいた。

「初めまして、二人とも。

 僕たちはこの旅館で専属床掃除として働いているスラ、ライ、イム、ムズ。

 合わせて、スライムズだよ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

 小さな見た目とは反比例のやたらと元気なスライムの言葉に反射的に頭を下げる二人。


「じゃあ、軽い自己紹介も終わったし、早速仕事にかかるけど。

 それじゃあ、二人とも僕たちを踏んで」

「えっ、ふ、踏むですか!?」

「もちろん、変な意味じゃないよ」

「僕たちスライムは基本的に床の塵とか埃とかを食べるんだけど……」

「僕たちこのように足がとても遅いんだ」

 まるでナメクジのようにトロトロと床を進むスライムたち。

 確かにこれくらい遅いと普通だと数分で終わる仕事も何時間もかかるだろうな。


「だから、普段は人間や亜人たちに踏んでもらって、床を滑るようにして移動させてもらっているんだ」

「そうすると、普通の人がやるよりも綺麗になるし、僕たちだけでやるよりも早く終わるんだ」

「そうだな。百聞は一見に如かずっていうし、ちょっと、君。僕を踏みながらすり足の要領で動いてみて」

「分かりました。あ、本当だ。普通に拭くより綺麗だ」

「綺麗と言うよりこれもう新品とほぼ同じじゃないか?」


「これでわかったでしょ?

 と言うわけで、二人ともよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「それにしてもここ、結構綺麗で立派な旅館ですね。

 やっぱり有名なんですか?」

「まあ、そうだね。この村唯一の旅館って言うのもそうだけど、店長があのゴブさんだからね。

 人が多いところだと知名度低いけど、モンスター界ではここは知らない人が居ないくらい有名だからね」


「……あの。ゴブさんって、そんなに有名なんですか?」

「有名と言うか、何と言うか。

 あの人は……こう。例えづらいんだけど、何かすごい」

「凄いって、何ですかそれ」

「ごめん。本当になんて言えば良いのか分からないんだ。

 取り合えず、ホッケー集団よりも凄いって言えば分かる?」

「あ、はい。分かりました。

 ゴブ様それくらい凄いんですね」

「ゴブ様、本当に凄い方なんですね」


「露骨すぎる手の平返し。君たち、あの集団と何かあったの?」

「あったと言うか、何と言うか……」

「なんとなく想像つくし、言いたくないって顔しているから言わなくていいよ」

「……ありがとうございます」

「……ます」

 そう言って、感謝の言葉を告げる二人。

 とは言え、あの恐怖の集団よりも凄いって、ゴブさんは一体何者なのだろう。

 そんなことを思いながら、掃除をする二人。

 そんな時。


「おい、何だこれ!!

 ここではゴブリンが飯作ってんのか!?」

 突然、旅館の中に響く怒号。

 それに釣られたのだろう。

 何人かの部屋でゆったりしていた客がなんだなんだと部屋から出てきた。


 廊下に出る客たち。

 その視線は遥か先の一人の老エルフとその老エルフに謝るゴブさんへと向けられていた。


「申し訳ございません。

 今日は私以外の板前がおらず――――」

「言い訳などいらん。

 まったく、知り合いが最高な店だと言ってたから来たと言うのに。

 もちろん、昨日の宿代含めて無料にしてくれるよな」


「うわ、クレーマーかよ」

 冒険者として生活してきたときもこういう輩は確かに居たが、この手の輩はどの種族でもいるんだな。

 冒険者の時はこの手の輩と遭遇した時はただひたすら謝り倒すか、最悪力ずくで無理矢理従うのどちらかしていたが……


「この手の頑固爺は無理矢理従わせる方が良いよな」

「だな、これから世話になるんだしこれくらいの恩は売った方が良いな」

 と、目を合わせながら、頷いた二人は腕をまくり、一歩踏み出した。

 すると。


「はい、二人とも。これ着けて」

「へ? 何ですか? グラサンですか? これ」

 そう言って、スラから渡されたのは王国で売っている何処にでもあるグラサンだった。


「そうグラサン。今日は屋内みたいだし、たぶん落ちるパターンだと思うからな。

 ほら、隣の君も。つけないと危ないよ」

「は、はあ」

 気の抜けた返事をしながらグラサンを受け取る二人は、不意に周りを見る。

 そこにはスラたちだけではなく、客の全員がまるで示し合わせたかのようにグラサンをかけていた。


「ほら、早くしないと落ちるよ。着けた着けた」

「は、はあ。分かりました」

 グラサンを着けたところで何があるんだろう。

 そう思いながら、どんどんヒートアップするクレーマーを前にグラサンを付ける二人。

 その瞬間――――


 ドォォォオオオオオオン!!

「お客様!! 大丈夫ですか!?」

「――――」

 一体何が起きたのだろう。

 グラサンを着けた瞬間に、視界が真っ白になり、それが元に戻ったと思ったら、先のクレーマーが地面に倒れており、ぴくぴくと痙攣していた。


 状況的には雷が運悪くクレーマーの上に落ちたのだろうが……

「あまりにもタイミング良くないか?」

 人の真上に当たるだけでも珍しいのに、それがクレーム中のクレーマーにあたるなんて、どれくらいの確率なんだ?


「これで分かったろ?

 これがゴブさんの凄さなんだ」

「えーと、何となく予想はつくんですけど。聞いてもいいですか?」


「実はゴブさんって、複数の特殊称号(ユニークスキル)持ちなんだけど。

 そのうちの一つに神の寵愛と言う称号があるんだ。

 その効果が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って称号なんだ」

「ちょ、ちょっとそれどんなチート称号なんですか!?」


 称号。それは、言ってしまえばこの世界を作った神がそれぞれの功績などで与える力のことだ。

 無論、神の力を与えられるため称号はなかなか手に入らず、多くても一人一個と言うのがこの世界の常識なのだが、その中でも更に特殊な称号を特殊称号と言い、その効力は常識はずれなものが大半だ。

 そして、ゴブさんもどうやらその一人らしく、かのクレーマーはそれによって神罰を受けたのだった。


「なるほど、確かにそれは凄いですね。

 ゴブさん」

「でしょ? しかもこの村の住人でゴブさんと親しくない人はいないから自動的にこの村の住人に失礼を働くとああなるんだよ」

「なるほど。正にクレーマーは生きられない村ですね……そりゃ人気になる訳だ」

 例え、どれほど快適な旅行でもクレーマーと言う存在は聞いたり見たりするだけで心が疲労する。

 それが無い。もしくはあったとしても死ぬほどの目に合うとなれば、自動的にクレームは無くなり、快適な旅行になる。


「はいはい、皆さんどいてください。

 医者が通りますよ」

「さてと、もうひと眠りするか」

 そして、住民だけではなく客もそのことを知っているのか天罰が終わるや否や流れるかのように医者は治療器具を持って老エルフへと近づき、客はそのまま自室に戻った。

 そして、天罰が下ってから一時間と経たずに旅館の修理含めて全て終わり、再び旅館は再開した。


 そして、その日の夜。

「それにしても、中々すごかったな。

 まさか、あんなチート称号持っているなんて」

 一日の労働を終え、疲労感と眠気を感じながら、四人は話していた。


「だな、俺もビックリしたよ。

 これからはゴブさんじゃなくて、ゴブ様と言わなきゃいけないだろうな」

 そう言って、あははと三人は笑う。

 しかし、そんな中、唯一笑わなかった一人が小さな声でそっと呟いた。


「ねえ、昨日の夜。()()()()()()()()()()()()()――――」

「――――あ」

 その瞬間、先ほどまで笑いに包まれていた部屋は一気に氷点下へと下がった。


「や、やばい。ど、どうしよう」

「ま、まあ。天罰下ってないからセーフじゃないか?」

「そ、そうだよな。

 あれから丸一日経ったんだから、もう安全圏だよな」


「でも、確か……天罰ってラグが……」

「つ、つまり。下手すると今にも天罰が――――」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 静寂に包まれる部屋。


「取り合えず、寝るか。

 ラグについては明日ゴブさんかスラさんに聞くよ」

「そうだね。お願い。

 私は遺書を書いてから寝るわ」

「……俺もそうする」

「……俺もする」

「……私も」

 こうして、深夜の部屋の中、蝋燭の火を明かりに遺書を書いた四人はそのまま眠りにつくのだった。

正直現実にあったら一番欲しい能力って何だろうと考えた結果、浮かんだ話です。

楽しんでいただけたら幸いです。

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