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勇者「娘さんを僕をください」  作者: 筆我尾曾井
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第004話「名前のない最果ての村。ここは白骨死体が時々動く村です」

 旅館から出て凡そ数分、旅館が見えなくなったところでゴブが口を開いた。

「さて、それでは早速村について説明しますが、その前に一つ皆さんにお伝えすることがあります」

「は、はい。何でしょうか?」

 先ほどの件がよほど怖かったのだろう。

 顔面を少し青くする四人。

 そんな四人を前にゴブは大丈夫と朗らかに手を振る。


「大丈夫ですよ。

 単に皆さんの仕事の中に配達があるので、その時ちょっと注意しなければいけないだけなので。

 では、皆さん。あそこをご覧ください」

 まるで何処かのガイドのように手をある方向へ向けるゴブ。

 その方向へ視界を向けた四人。


「……あの一つ聞いても良いですか?」

「はい、何でしょう」

「何で白骨死体が野ざらしになっているんですか?」

 そう、そこには完全に白骨化した死体がそこにあった。

 無論、ここまで何体かスケルトンを見たことから白骨があること自体はそれほどおかしいことではない。

 だが、本来筋力が無いため、服を着ても動けないのがスケルトンと言う種族で、基本的には服を着ていれば死体、着ていなければスケルトンと言うのがこの世界の常識だ。

 そして、あの死体は前者のタイプでつまり死体だ。


 もちろん、森の中へ行けばこのような白骨死体はおかしくない。

 だが、ここまで見た限りはそれなりに豊かなこの村で死体が野ざらしになっているのはおかしなことではないのだが――――


「まあ、歩きながら話しましょうか。

 皆さんに気を付けて欲しいことですが、あれは魔王様で偶に動くのでびっくりしないでくださいと言うことです」

「へー、そうなんですか。

 魔王様なんです……今なんて言いました?」

「だからあれ、()()()です。

 外だと勇者ユウによって倒された人です。

 あの人、今はピクリとも動かないですけど偶に泣き始めるのでびっくりしないでください」


「いや、注意するのそこじゃないでしょ!?

 な、何で魔王が居るのよ。確か勇者によって封印されて倒されたんじゃ」

「ああ、なるほど。

 まあ、確かに封印されたと言えばされましたね。幸福で」

「封印(幸福)!?」

「まあ、そこの説明を含めて今から説明しますね」

 そう言って、ゴブは目的地へと向かいながら魔王について話し始めた。


 何でも魔王はかつては人として生きていて、誰もが憧れるほどの凄腕の剣士だったそうだ。

 そして、その強さは規格外で、彼一人で300もの他国の兵士を倒したと言う逸話があるほどだった。

 だからだろう。彼を欲しがる女性は後を絶たず、自国の女性だけではなく他国の女王すら彼に求婚していた。

 しかし、そんな彼女たちを魔王は自分に勝った女としか結婚しないと言い、その全てを蹴ったと言う。

 そんなある日、ある一人の女性に恋をした魔王はその人と結ばれようとアプローチしたのだそうだ。


 しかし、その女性の正体はサキュバスで当時はサキュバスは人類の敵だと言う人が多く迫害の対象にされており、彼女もまた例外ではなかった。

 だからだろう。魔王に一目ぼれした彼女は好きだからこそ、普通の人と結ばれて幸せに生きてくださいと姿を消そうとした。


 だが、そんな彼女に、魔王は惚れたら敗けと言う言葉通りに、自分に勝った彼女以外と結婚しない。

 サキュバスが人類の敵かどうかなんては常識どうでも良いと言い、結ばれた二人は姿を消したそうだ。

 だがしかし、自分よりもサキュバスと言う人類の敵を選んだと言う事実に耐えられなかった各国の女王は、彼女を殺そうと兵士を出し、結果彼女と魔王は共に瀕死。

 唯一無事だったのは二人の間に生まれた一人娘だけだったそうだ。


 そこで魔王はサキュバスである彼女へ自分に娘が立派に育つまではこの世に留まる呪いを付けるようにと言ったそうだ。

 もちろん、彼女はそれを断った。

 何故なら、スケルトンなど怨念が力になり形となって動くモンスターと、魂をこの世に留まらせるのは全く別の話しで言ってしまえば死んでいるにも関わらず生きているようなもので、日に日に自分の体が腐っていく感触を味わいながら生きる地獄を味わうのと同じだそうだ。


 だが、それでも自分は大丈夫。それに娘が立派に育つ姿を見られることに比べれば安いもんだと言った魔王はその呪いを受け止める覚悟をして、そして腐生者(ゾンビ)となりました。


「そして魔王様は娘のサキさんを立派に育てながら、10年、20年と自分が腐っていく感覚と戦いながら今なお生きているそうです」

「……そうだったんですか」

 ゴブの言葉を前に思わず口を閉じる四人。

 確かに自分たちの周りの人や、師である勇者たちはサキュバスや魔王のことを人類の敵だと言っていたおり、自分たちも最近まではそう思っていた。


 だが……

「なるほど、つまり魔王が泣いたり動いたりするのは当時のことを思い出すからですね」

「お気持ち察します」

「……俺たちが言うのもなんですが、本当にすみません」

「……ごめんなさい」

 先ほどの話しを聞いてなお魔王やサキュバスが人類の敵だと思える気持ちは四人には無かった。

 そして、歴史上の実際の話しでもサキュバスに恋をした剣士と言う話は聞いたことある。

 無論、全てを鵜呑みにするわけでは決してないが……少なくとも魔王と彼女が互いに愛し合っていたことは確かだろう。

 そんな人生を送っていたにも関わらず、それが奪われたのなら少なくとも自分ならはほぼ毎日のようにそのことを思い出し、陰で泣いてただろう。

 そんな四人たちを見ながら、ゴブは申し訳なさそうな顔をしたまま口を開き――――


「……娘さんに出禁を喰らってやることが無くなって茫然としているだけです」

「……はい?」

「あそこにある白骨死体はただ茫然としているただの白骨死体です」

 ゴブの言葉に素っ頓狂な表情と声を漏らす四人。


「えーと、どういうことですか?

 ってきり僕たちは奥さんの死をあそこで味わっているのかと」

「……あの人、腐生者(ゾンビ)になってわずか数日で魂だけあの世に行くことが出来るようになりました。

 今も週五のハイペースで奥さんに会いにあの世に旅行に行ってます。

 最近ではあの世の方が時間の流れが遅いし、主神(ゼウ)が神父になって結婚式また挙げられた死後最高!! と豪語して回って周囲からはしつこいと顔面に痰を吐かれています」

「魔王なのに!?

 いや、ちょっと待ってください。なら何で泣いているんですか!?

 意味が分からないですよ」


「実はつい最近、お孫さんが魔王様の骸骨の姿に怯え始めて娘さんからしばらく慣れるまで家に来ないでと言われたことで、お孫さんに出会えず、それで……」

「おい、ちょっと待て。俺たちの感動と申し訳なさを返せ」


「と言うか、そもそもの話し勇者が封印したっていうのは――――」

「あれは単純に娘さんと勇者が結婚して、同居を始めたのを周りが勝手に封印したと勘違いしているだけです。

 まあ、分かりやすく言うと引っ越ししただけです」

「おい、引っ越ししただけって適当にも程があるだろ!! ……って、と言うことはつまり……」

「はい、昨夜のモンスターの群れの戦闘に立っていたホッケーマスクの男の人。

 あれが勇者ユウです」

「……嘘だろ」

「あれが……かの大英雄の……」

「嘘だ。嘘だと言ってくれ……」

 今まで清廉潔白、正義と人類の味方と言う存在だった勇者ユウ。

 その存在はこの瞬間を持って、数多のモンスターを率いる恐怖と邪神の根源と変わった。


「因みにですが、あの人自分のことを邪神のようですねと言うとありえないくらい喜ぶので――――」

「お願いします。

 もうこれ以上、私たちの心の中の英雄を汚さないで!!」

 こうして、静かでのどかな村の中で四人の慟哭は何処までも響くのだった。

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