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勇者「娘さんを僕をください」  作者: 筆我尾曾井
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第003話「殺意を抱いていないだけで残り一割の大半は呪いの準備を始めています」

 勇者の卵。

 それは数年前に魔王を倒した勇者と共に旅をした五人の弟子であり、この世でトップクラスの才能あるものたちのことだ。


 ゆえに、そんな彼らの五人の内四人が入っている王国のギルド長は鼻高々に毎日を過ごしていた。

 そんなある日。

「僕たち、私たち、移住します」

「は? おい、ちょっと待て!!」

 四人全員がその一言と一緒に姿を消し、以降四人は完全に消息を絶ったのだった。


 名声も将来も何もかも捨て、姿を消した四人。

 そんな四人が姿を消す決意をしたのは、時を遡ること四日前。

 名前のない村の住人に捕虜として捕まったことから始まったのだった。


「はーい、それじゃあ捕虜の皆さん起きてくださーい。

 これから皆さんに簡単な説明をしまーす。

 支給した布団と毛布はちゃんと畳んでくださーい」

「分かりました」

 村を襲撃しようとして、逆に捕まった勇者の卵の四人はフライパンをガンガンする音と一緒に目を覚ました。


 起きた瞬間に、視界に広がるのは畳と障子と言う東の国にあるとされる所謂和室の光景で――――

「何と言うか……あれだったな」

「うん、そうだね。

 あんなことしたんだからもっとひどい目に合うと思ったんだけど、予想以上に好待遇だったね」

「まあ、皆さんは僕を捕まえただけで他には何も悪さしてなかったので、そのおかげでしょうね。

 本当に悪いことした人は岩の監禁所に連れてかれますよ。

 あと、皆さんどうでしたか? 昨夜は良く寝れましたか?」

 と、朗らかな笑顔で語るのは昨夜、自分たちが捕獲したゴブリンのゴブだった。


 そんな彼へ向けて気まずそうな四人だが返事をしなければいけないと思い、四人は軽く視線を合わせた後頷いた。

「はい、それはもう」

「気持ち良かったです」

「普段は野宿なので助かりました」

「そうですか。それは良かったです。

 因みに内緒なんですけど昨日のあの光景を夢に見ないようにこっそりと安眠の魔法を使ってみたんですけど効いてよかったです」

「それは、お気遣いありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」

 そう言って、更に笑顔の色を浮かべるゴブ。

 そこには、凌辱や不潔の代表格と呼ばれるゴブリンではなく、普通に他人の喜びを共感できるただの善人が居たのだった。


「さて、それでは早速皆さんには今回の罰として三日間この旅館で働いていただきます。

 基本的には朝の五時から夜の八時までで、キツイとは思いますが頑張ってください」

「はい、分かりました」

「頑張ります」

「お任せください」

「よろしくお願いします」


「はい、皆さん。

 大変いい返事ありがとうございます。

 と言うわけで、早速仕事を――――と言いたいとこですが、その前に皆さんにはこの村について説明しなければいけないことがあるので、外に出る準備をしてください」

「「「「はい、分かりました」」」」

 と四人が同時に元気な返事をしたのを喜んだゴブは更に深く頷くのだった。


 そして、準備を終えた四人は旅館の入り口に集合する。

 すると、そこには既に準備を終えたゴブが立っていたが、その表情は先とは違うほど緊張したもので、四人もその顔に合わせて気を引き締めなおした。

「さてと、ではこの村についての説明についてですが、その前に皆さんにこの村で過ごす上で重要なことをお伝えします。

 これは場合によっては命の危機になるのでよく覚えていてください」

 ゴブのその言葉にごくりと喉を鳴らす四人。

 その様子を見たゴブは緊張した表情のまま口を開き――――


「この村では決して()()と言う言葉は使わないようにお願いします」

「…………勇者で――」

 ゴブの言葉に反射的に勇者ですか? と言おうとした瞬間。


「勇者だと? おい、何処にいる!!」

「腐った生ごみ共が!! 殺す!! 殺してやる!!」

「手前ら!! 自爆してでもあいつら殺すぞ!!」

「当たり前だ!! 死んでもあいつらぶっ殺すぞ!!」

 一気に周囲に充満する殺意。

 それは加速度的に進んでいき、わずか30秒で村中から殺意に満ちた言葉と、ホッケーマスクを被った集団がガラス越しに無数に表れる。

 そして、それを目にした瞬間、反射的に四人は昨夜の件を思い出した。


「ごめんなさい。ごめんなさい」

「おぇぇぇえええ」

「(※気絶中)」

「いやああああああ!!」

「……だから言ったのに」

 と、呟いたゴブは、拡張器を取り出す。


『先ほどの報道は誤報です。

 勇者は今近くにおりません。

 繰り返してお伝えします。

 先ほどの報道は誤報です。

 勇者は今近くにおりません』

「なんだ誤報か。はぁ、誰だよ」

「たっく、迷惑この上ないな」

 先ほどまでの殺意が一瞬で薄れ、そしてそれに合わせるように四人の精神が元に戻る。


「と、このようにこの村の住人の約九割は勇者と言う単語で反射的に殺意を抱いて、下手をすると殺しにかかるので気を付けてください。

 因みに、理由は秘密です」

「は、はい。分かりました」

「肝に銘じます」

「ちょっと、着替えてきます」

「……私も」

「……分かりました。ここで待っているのでゆっくり着替えてください」

「ありがとうございます」


 そして、吐しゃ物などで汚れた服を着替えた四人は村の案内へ出発するのだった。

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