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勇者「娘さんを僕をください」  作者: 筆我尾曾井
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第002話「勇者は何処だ?」

 ここは最果ての名前の無い村。

 森に囲まれたこの村は、かつて、魔王と呼ばれていたものや、彼に従う四天王。世界や村を破壊するモンスター。そして、その仲間や家族たちが住むパワーバランスが奈落へと落ちた場所だ。


 そんな村の最端部にひっそりと佇む一軒の家。

 そこにはかつて勇者と呼ばれたユウは魔王の娘と二人の間に生まれた子と一緒に暮らしていた。

 そんなユウの朝は早い。

 早朝、日が昇る前に起きだし、村の周囲に張ってある罠が起動していないかを見る。


「ユウさん。おはようございます。

 どうですか? 罠は動いていましたか?」

「おはようございます。スライムの……」

「スラだよ。もう、ちゃんと覚えてよ」

「すみません。まだ不定形の人は判断が難しくて」

「いいよ。別に。

 僕だって未だに嫁さんと他の人の区別つかないし」

「いや、それは不味いでしょ!!」

「あはは、だよね。

 まあ、それくらい僕らの種族って見分けがつかないから気にしてないよ」

「そうでか。ありがとうございます。

 おっと、話戻しますけど、今日は罠動いていないみたいですね」


「そうか。

 なら良かったよ」

「そうですね。

 奴らが何度も来たら危ないですから。

 あ、そうそう。この罠張ったのって誰ですか?」

「そこは……確か俺の息子だな。

 何か不味かったか?」

「いいえ、特には問題ないんです。

 単純によく出来ていると伝えてください」

「そうか。元勇者にそんなこと言われるとは、俺の息子も中々だな。

 ありがとう。ユウ」

「どういたしましてです。

 あと、出来れば勇者の言葉は言わないでくださいね。皆さんピリピリするので」

「そうだな。っとよしこれで終わりだな。

 お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

 そう言って、スラはユウを尻目に手を振りながら去っていき、ユウもまた帰路へと着いた。


 そして、罠を確認したユウだが、それでもまだ仕事は終わりではない。

 一家の大黒柱であるユウは家に着くと同時に、鎧の代わりにツナギを、兜の代わりに麦わら帽子、そして刀の代わりに鍬を装備し家の真正面にある畑へと向かった。


 一回、また一回と素振りをするように畑を耕すユウ。

 そんなユウが畑の半分まで耕した後、不意に、

「あなた。ご飯ですよ」

「おう、分かった」

 最愛の妻からの声が耳に入った瞬間、すぐさま作業を中止したユウは部屋着に着替え、家へと入る。


 そこには――――

「お疲れ様。

 ジークのご飯は俺がやるからサキは自分のご飯食べなよ」

「え……でも朝から仕事で疲れ――――」

「『完全回復(レストア)』、『完全回復(レストア)』、『完全回復(レストア)』、『完全回復(レストア)』』!!!!!!

 何か言った?」

「分かりました。お願いします。MP枯渇する前にやめてください。

 あと今日の食後のお茶はMP回復薬(ポーション)です」

「分かった。ありがとう」

「いえ、こちらこそ俺の我儘聞いてくれてありがとう。

 昨日はサキに全部やらせちまって、何も出来なかったからな。今日はこの子に何かしてあげたくて……な……」

「あなた……本当にありがとう」

 そう言って、ユウの妻であるサキは軽く頭を下げた。


「さてと、それじゃあ飯も食べ終えたし、俺は仕事するから後は頼む」

「はい、分かりました。

 頑張ってください。ほら、ジークもお父さんいってらっしゃいって」

「うー」

 子供の手を握って、小さく手を振るサキ。

 そんな彼女の姿を見ながら満足げにほほ笑んだユウはそのまま行ってきますと言って、外へ出たのだった。


 そう、元勇者であるユウは自分の地位も名誉も何もかも捨てたにも関わらず、毎日幸せに平穏に生きていた。

 そんなある日――――


「どうだ? この村は……」

「ええ、情報通り危険の域をはるかに超えているわ」

「スライム、ゴブリン、オークはまだしも。

 死霊の王(アンデットキング)、ドラゴン、果てには竜神(リヴァイアサン)までいるわ」

「正直言って、世界がここまで平和なのが不思議なくらいだ。

 ここにいる奴らの内、数匹でも外に出たら、世界は終わりだ」

「結界でも張っているんじゃない?」

「いや、流石にどんな結界でも竜神を封じるなんて無理だろ」

「ああ、そうだな。

 だからこそ、世界を平和のため。そして、かの英雄ユウのためにも俺たちが何とかしなければいけないんだ」

 黒い服を着た四人の若者。その身のこなしは誰が見ても一発で普通ではないと思えるほど鋭く、実際に彼らは次期勇者と呼ばれるほどの実力を持った冒険者だった。


「死霊の王なら、俺たちでも討伐出来るが……他にも居るとなると話は別だな。

 いったんギルドに報告するぞ」

「分かったわ……ちょっと待って。

 近くにゴブリンが居たわ。

 捕まえてくる」


「忍術。蛇紐!!」

「わっ、なんだ。急にロープが――――」

 そう言って、四人のうちの一人。紅一点の彼女は指先で印を組むと同時に現れたロープは意思があるかのように動き出し、少し離れた先に居るゴブリンを縛り彼女の前へと連れてくる。


「ねえ、ちょっと。聞きたいことがあるんだけど」

「お前ら……に、人間か!!

 もしかして、勇者か!?」

 ガタガタと歯を揺らすゴブリン、恐らく自分が殺されることを理解したのだろう。

 優位性に立ったことで満足感を感じた一人が口を引っ張りながら話し始めた。


「ああ、その通りだよ。

 俺たちはかの勇者の弟子。

 言っちまえば勇者の卵だ。

 だから――――」

「早く、に……くれ」

 その言葉を聞いた瞬間、顔色が青色から白へと変わるゴブリン。

 恐らく命乞いをしているのだろう。

 そのことに加虐心がさらに満たされた男はナイフを取り出し、駄目だと言おうと口を開こうとした瞬間。


「俺のことは良い。

 早く、()()()()()()()()()()()

 あ、あの人が、()()()()()()()()!!」

 まるで自分の身を案じるかのように言ったゴブリンの叫び声。

 その声が耳に響いた瞬間、彼らの耳元にある声が聞こえた。


「勇者か?

 勇者が来たのか?

 勇者が来たのかぁぁぁあああああ!!」

 深夜の森に響く男の絶叫の声。

 その方向に耳を傾けた四人が見たのは――――


「勇者が来―た―

 勇者が来―た―

 ど―こ―に来た―

 や―まにき―た―

 さ―とにき―た―

 む―ら―にき―た―」


「な、なに……あれ?

 マスクに、チェンソーに、あれは……ひ、人?」

「あ、ああ、あああ」

「人……だけじゃない

 オークに、ゴブリンに、アンデットに」

「……おぇぇぇえええ!!」

 血だらけのホッケーマスクに、異常なほど高速回転するチェンソーを持った人間を先頭に次々と現れる同じ面を被ったモンスターたち。

 その姿は一言で言えば異端であり、視界に入れるだけで恐怖感が染み渡り、あるものは吐き出し、あるものは失禁し、あるものはただ地面に土下座し、あるものは逃げ出した。

 生理的に恐怖を産む存在。四人の前に現れたのはまさにそれだった。


「おい、質問に答えろ。

 ゴブを縛ったのはお前らか?」

 邪悪な集団の先頭に立っていた男が四人の眼前に現れる。

 その姿は正に邪神としか言えず、四人とも嘘を言う余裕は消え、ただ首を縦に振る。


「そうか。

 なら次の質問だ。

 お前らは勇者の関係者か?」

 その言葉に首を縦に振る四人。

 その瞬間――――


「殺せ!! 殺せ!!」

「地面に埋めて腐葉土にしてやる!!」

「クソがぁッ、外道勇者がぁぁああああ!!」

 一気に沸き立つ殺意と憤怒の声。

 その声にもはや限界を超えていた四人の内三人が気絶した。

 しかし、眼前の男が右手をさっと上げると、その声はすぐさま治まる。

 恐らく、彼がリーダーなのだろう。

 背後にいるモンスターたちの視線を一人で集める男はそのまま口を開く。


「最後の質問だ。

 嘘ついたら殺す。

 お前とそこにいる気絶した三人の中に勇者は居るか?」

 男の言葉に首を横に振る。

 確かに自分は勇者の卵だが、まだ勇者ではない。

 それは後ろにいる三人も同じだ。

 その言葉が聞こえた瞬間。


「おーい、みんなー。

 勇者じゃないってよ」

 まるで毒気が抜かれたかのように一気に周囲の気配が緩い物へと変わる。

 その姿はまるで邪神が、神に生まれ変わったかのようで――――


「ごめんなー。

 俺らちょっと勇者に対しては敏感になっちゃって。怖かったよな。

 あっと、ごめん。ちょっと待ってて『完全回復(レストア)』」

 ホッケーマスクを脱いだ男は申し訳なさそうにそう言い、古代魔術でありとあらゆる状態異常と体力、果てには死すら治す魔法を発動し、四人を元の状態戻した。

 だが、それで終わりじゃないと言うかのように腕を組んだ男。

 それは、まるでこれから説教をしますと言うかのようで、そんな男に、思わず反射的に四人は正座をする。


「まあ、確かに普通の人がこの村を見たら危険だと言うことは分かる。

 でも、ここにいる奴らは全員基本的に温厚で、外に出る奴もそうそう居ないから安心しろ」

「はい、分かりました」

「あ、オーグ。

 ゴブの縄ほどいといて」

「了解だ」

 そう言って、ホッケーマスクを脱いだオーグと呼ばれるオークは、ゴブリンの傍へと行き、ローブを外した。


「あの……俺たちは……これから……」

 どうなるんでしょうか。と言葉を濁しながら言う。

 そんな四人を見ながら男は少し考えると、口を開いた。


「取り合えず、ゴブを縛って脅迫したことは悪いことだから、三日間この村の手伝いをしてもらう」

「へ? それだけで、良いんですか?」

「良いも何も。別に殺したりしてないし、傷つけて脅迫したくらいならこれくらいで良いだろ」

 のほほんと軽い言葉で言う男。

 しかしそれは、死を感じ取り、恐怖に支配された四人にとっては神のような言葉であり――――


「ありがとうございます。

 ありがとうございます」

「土下座って、大袈裟だな……」

 涙を流しながら心のこもった感謝の言葉と共に四人は頭を下げるのだった。


 そして、四日後――――

 任務に異常なしとギルドにそう告げた四人は、移転すると言い森の中にある最果ての名前の無い村へと消えていったのだった。

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