【7-01】 挨拶
「昼」「夜」「朝」「夕方」
「うん」
「人間」「敵」「味方」「危険」「安全」
「そうそう」
「ある」「ない」「できる」「できない」
「だいぶ上手くなったなあ」
ただ今、洞窟前の広場で、シーナにドラゴン語のレッスン中。とりあえず、普段の会話に使えそうな単語を中心にどんどん教えている。
どうやら最近、シーナはドラゴン語の発音のコツを覚えたらしい。ぼくが期待してた以上にきれいな発音で、とても聞き取りやすくなってきた。こうなったら、誰かに聞かせたくなるなあ。
――と思っていたら、ちょうどドラゴンの羽音が。
「エルン、元気ー?」
おお、ルーザン。いいところに来た。
シーナを鼻先で誘導して、着地したルーザンの前に立たせる。
「ちょっと、これ見て」
「巫女がどうかしたの?」
「ほら、シーナ。挨拶」
シーナは頷くと、ルーザンに向かって立ち、右手を胸に当てた。
「こんにちは」
日本人なら頭を下げるところだけど、このあたりではこれが挨拶のポーズらしい。
ルーザンは、ポカンと口を開けたまま、しばらく固まっていた。そして……、盛大に吹き出した。
「あ、あはははははははは! すごい! 喋ってるうううううううう!!」
腹を抱え……るのはドラゴンの体型ではちょっと無理だけど、代わりにしっぽで地面をバンバン叩きながら笑い転げている。なるほど、ドラゴンが笑う時って、ああすればいいのか。
それはともかく、思ってた以上にウケた。ある程度驚いてもらえるかもとは思ってたが、ここまでとは思わなかった。
しばらくして、ルーザンが起き上がった。やっと落ち着いたかな? まだ、笑い過ぎて目に涙が浮かんだままだけど。
「こ、これ、巫女に何をやったの!?」
いや、何と言われても……。普通に教えてみただけだけど。
「普通に教えただけで、言葉を喋れるようになったの?」
うん。こんなにきれいに発音できるようになるなんて、ぼくにも予想外だったけど。
「いや、発音というか……。言葉、よく覚えたね」
それはまあ、言葉くらい覚えるだろ。人間なんだから。
でも、こんなに驚くということは、ドラゴン語を話せる巫女は他にいないのだろうか? ドラゴンはずっと以前から巫女を従えていると聞いたけど、誰も言葉を教えてみようとはしなかったのか?
「今までに、巫女に言葉を教えてみたドラゴンはいなかったの? せっかく、いつもそばにいるのに」
「そんなの、いるわけないって」
ルーザンが、慌てて首を横に振る。
「巫女が言葉を覚えられるなんて、誰も思わないもん」
……ドラゴンって、人間が普通に言葉を話してることに気付いてないの!?




