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【6-06】 抱擁

 前方に、ドラゴンの洞窟が見えてきた。

「あれ?」

「そう。あそこがヴィルの洞窟だよ」

 すぐお隣と言っていいルーザンの洞窟に比べると少し遠いけど、ドラゴンの翼があれば気軽に飛べる距離には違いない。

 ここにも、洞窟のすぐ前に村がある。ヴィルが乗せてる巫女たちは、たぶんあの村の出身なんだろうな。




「あの、ぼくの洞窟でやったのって、さっき子供たちがやってもらってたやつ?」

 洞窟の見学が一通り終わって落ち着いたところで、さっきから気になってたことをヴィルに聞いてみた。ヴィルが、きょとんとした顔をする。

「あら、説明しなかったかしら?」

 うん。聞いてない。いきなり首を押さえ付けて……。

「エルンには、説明しないとわかるわけないでしょ!」

 ……ルーザンが先にツッコミを入れてくれたので、よしとしておこう。


 つまりヴィルは……。見知らぬ場所で母親の愛情を知らないまま育ち、ようやく故郷に戻ってみれば既に母親は亡く、一度も抱きしめてもらうことがかなわなかった(という設定の)ぼくを、母親の代わりに抱きしめてあげようとしていたのか。

 ルーザンがあれを見ても特別な反応を示さなかったのも当然だ。あれは、普通のドラゴンにとっては、誰でも小さいころ母親にやってもらっていたことで、何も変なことではないんだから。


 ぼくがとっさにおっぱいを想像したのも、ぼくのドラゴンとしての感覚が、あれが母性を象徴するものだと気が付いていたから……かもしれない。


 ヴィルが、ぼくの方に向き直って少し前足を広げる。

「わかったら、もう一度やってあげる」

「え、で……でも」

「ほら、遠慮しないで」

 ヴィルが、首を絡ませて誘ってくる。横ではルーザンも、当然そうするべきという顔で頷いている。

 えっと、それでは……。ちょっと躊躇いがちながらも、今度はぼくの方からヴィルの胸元に頭を差し込んでみる。ぼくが抵抗しないので、あまり力を入れて押さえ付ける必要もないのだろう。ヴィルは、ぼくの首をそっと押さえて優しく抱きしめてくれた。

 ……うん、確かに少し落ち着くかも。ヴィルの体温と鼓動を直接感じられて、何となく安心するというか……。


 しばらくヴィルに抱いてもらってから顔を上げると、横でルーザンが前足を広げて待ち構えていた。

「はい、エルン。次は私の番!」

 いや、これはそういう雰囲気でやるものではない気がするんだけど……?

 ヴィルが、不敵に微笑む。

「あら、あなたにエルンを癒せるかしら?」

「ふふふ。私の母性を甘く見ないでほしいね」

「おもしろい。勝負よ」

 いや、待て。これはどう考えても、二頭でぼくをおもちゃにして遊んでるだけだよな!?

これで6章を終わります。

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