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【6-04】 動物

「エルンのこと、どうだった?」

「んー」

 ルーザンの問いに、岩から吹き出すマナを舐めていたヴィルが顔を上げる。

「わりと気に入ったわ。テコンやマトーと同じくらい」

「ね。会いに来て良かったでしょ?」

 あー、そこの二頭。わざわざ他ドラゴンの洞窟まで来て、洞窟の主を無視して勝手に女子会を始めないように。しかも、本人の目の前で何を話してるんだよ!?。


 えっと、どうしよう?

 二頭ともぼくがここにいることは知ってるんだから、聞いてはいけないということはないと思うけど……。でも、いいのか? 本当に?

 とりあえず、他のことでも考えていよう。二頭から少し離れた場所に寝そべって、洞窟入り口近くの岩に座っておしゃべりに夢中の巫女たちを眺めてみる。ヴィルの巫女二人にルーザンの巫女が二人加わって、うちのシーナを入れると五人。今日はずいぶん賑やかだな。


 ふと視線を感じて顔を上げると、一頭の鹿が森から出てきて、こちらを見ていた。その体の模様には見覚えがある。だいたい毎日のように挨拶に来る、常連の鹿だ。

「おう、こんにちは」

 今日は別のドラゴンが二頭いるけど、ただの客だからあまり気にしなくていいよ。


 ぼくの挨拶を聞いて満足した顔で森へ帰っていく鹿を見送ってから、ふと気が付くと広場が妙に静かになったような。見回すと、ルーザンとヴィルが話をやめ、不思議なものを見る目でぼくを眺めていた。

「今、鹿に挨拶してなかった?」

 うん、してたけど。何か変?

 二頭が、顔を見合わせる。

「変ね」

「変だね」

 そんなに、二頭ががりで突っ込まれなければならないほど変なの!? 普通のドラゴンには、動物が挨拶には来ないの?

「いや、来るけど……」

 再び、二頭が顔を見合わせる。

「普通は、こちらから返事なんてしないから」

「わざわざ声で返事するドラゴンなんて、初めて見た」

 あ、そういうものなの?


 確かに、森の動物たちがドラゴンの洞窟を訪ねて来るのは事実らしい。ただし、それは動物たちが一方的にやっていることで、ドラゴン側には反応する義務はない。せいぜい、ちらっと視線を送って返事する程度で。

 たとえドラゴンが気付かなかったとしても、普通は動物たちは、ドラゴンの姿を見られただけで満足するものらしい。それどころか、もしドラゴンが留守だったとしても、洞窟にドラゴンが住んでいることを示す新しいにおいが付いているのを確かめるだけでも満足するものらしい。

 へー、そういうものなのか。ぼくの洞窟の近くに住む動物たちは、少し過保護過ぎだったみたい。


 ただ、挨拶をしてはいけない理由も特にないみたいなので、ぼくの独自の活動として、今後も挨拶は続けようと思う。

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