【6-02】 頭
「え、何? どうしたの?」
ヴィルが突然、頭をぼくの首に上からぐいぐい押し付けてきた。何だろ? もっと頭を下げろってことかな?
何の意味があるのかわからないけど、とりあえず押されるままに頭を地面近くまで下げてみる。これでいい? それから、どうするの?
「え? うわ、わわっ!?」
突然、ヴィルがぼくの頭のすぐ後ろあたりの首を両手……いや、両前足で押さえ込みながら、顔の上にのし掛かってきた。
ドラゴンの体は丈夫だから、この程度なら別に痛いとか苦しいとかはないけど。それでも、ドラゴンの力で押さえ付けられているうえにヴィルの胸と地面の間に挟まれているので、頭が動かせない。
ドラゴンは首が長いから、頭を固定されてもそれとは無関係に体は動かせる……かと思いきや、実際にやってみるとこれが意外と難しい。
つまり……。頭を固定されてしまうと、まともに身動きができない。
そんなことよりも、顔がおっぱいに……。いや、ドラゴンにおっぱいはないけど。そもそも、卵生のドラゴンに乳腺なんてないはずだけど。でも、なんかそんな気分にっ!
「ちょ、ちょっと、待って」
翼をバタバタさせて少し抵抗してみるが、その程度でヴィルに動じる様子はない。むしろ、ますます力を入れて首を抱え込んでくる。
ふと気が付くと、首に何かが触れる感触が。これは、ヴィルの顔? ヴィルが、顔をぼくの首に擦り付けている? えっと……、何だこれ?
ヴィルに頭を押さえ付けられ、まともに身動きができないまま数分。そろそろ誰か助けに来てくれないかななんて思い始めた頃、都合よくドラゴンの羽音が聞こえてきた。
「あ、ヴィルが来てたの」
「あら、ルーザン」
押さえ付けられていて顔を上げられないので見えないけど、どうやらルーザンが来たらしい。
「なあに、エルンを虐めてるの?」
「そんなわけないでしょ」
「さっき、エルンの悲鳴が聞こえなかった?」
「気のせいよ」
えっと、どうなんだ? これ、虐められてるのだろうか? そもそも何をされてるのかが理解できてないので、判断が難しい。実際にやられてる感覚として、あまり虐められてるような気分ではない……気もするけど。
いや、そんなことよりも、ルーザンはこの二頭の不思議な絡み合いについて、何かコメントはないの!? この体勢って、そもそも何?
ルーザンが来たからなのか気が済んだからなのかはわからないけど、やっとヴィルが首を離してくれた。ふう、結局なんだったんだろ。
「ほら。エルンだって、別に嫌がってないでしょ」
ようやく自由になった顔を上げると、ルーザンがぼくを眺めていた。
「まあ、そうみたいだけど……」
嫌がってない? ぼくが? そうなの?
考えてみれば、そうなのかもしれないな。
ヴィルにドラゴンの力で押さえ付けられたのは事実だけど、それを言うなら、ぼくだってドラゴンの力を使える立場なのだ。しかも相手はメスだから、力比べならぼくの方が強い可能性が高い。つまり、ぼくが本気でそうしたいと思えば、ヴィルを振りほどいて逃げることはできた……はず。
では、なぜそうしなかった?
まあ、半分は突然のことに驚いて反応できなかったからだけど……。では、残りの半分は? ぼくも、実は嫌がってなかった……?
実際、戸惑ってただけで、そんなに嫌な気分ではなかった……ような気も……。




