【6-01】 ヴィル
洞窟前の広場でのんびりしていたら、ドラゴンの羽音が聞こえてきた。
「はじめまして。あなたがエルン?」
「あ、はじめまして」
また、新しいドラゴンが来た。最初の一時期に比べるとだいぶ減ったけど、まだ時々、新しく挨拶に来るドラゴンがいる。
「ヴィルよ。よろしく」
若いメス。ルーザンと同じくらいの年齢だと思う。近所に、まだこんなドラゴンがいたのか。
座り込んだヴィルの背中から、人間の少女が二人、地面に滑り降りた。ヴィルの巫女たちだろう。ヴィルも、巫女を連れ歩くタイプみたいだな。
羽音で気が付いたのか、シーナが洞窟から出てきて二人を出迎える。シーナの、他のドラゴンの巫女を出迎える様子も、だいぶ手慣れてきた。最初の頃は、どうしていいのかわからなくてオロオロしてる感じだったけど。
ヴィルが、改めてぼくの前に座る。
ドラゴンの習慣では、お客さんは洞窟前の広場で応対すればいいらしい。洞窟がいくら広いと言っても、ドラゴンが数頭も入ればいっぱいだ。雨の日でもなければ、無理に洞窟に入ってもらうより外で話す方が気分がいいのは間違いない。
「あなたのこと、ルーザンから聞いてたんだけど……」
あ、ルーザンと知り合いなのか。それはまあ、そうか。近所に住んでいる同世代のメス同士なんだから、親しくても不思議はないな。
「どんな感じなのか心配で、しばらく挨拶に行くのを躊躇ってたの。でも、思ったより普通でよかった」
あー、それで遅かったのか。
まあ、そうだよな。今までずっと社会から隔絶された場所で一頭だけで暮らしてたなんて聞けば、突然ジャングルから現れた原始人みたいな感じのを想像しても不思議はないよな。
ぼくは、具体的な常識や習慣はまだあまり知らないけど、それ以外はまとも……だと信じたい。言葉が普通に通じるおかげで、わりとなんとかなるので助かる。今のところ、まだ他のドラゴンから失礼を指摘されたことはない。
「それに……」
ヴィルがぼくを見て、ふふっと微笑む。
「なかなか、かわいいし。気に入っちゃった」
「え、あ、えっと、ど……どうも」
突然予想外のことを言われて動揺するぼくを見て、ヴィルがクスッと笑う。
「やっぱり、かわいい」
しばらくヴィルと世間話をしているうちに、既に挨拶に来たドラゴンの中にヴィルの母親もいるという話題になったとき、突然ヴィルが黙り込んでしまった。
「……そうか。あなた、とうとうお母さんに会えなかったのよね」
「あー、うん。そうみたい」
ぼくも、昨日おばちゃんドラゴンから聞いたばかりなんだけど……。
ぼくのことは、ドラゴンの連絡網――というか、おばちゃんドラゴンたちの噂話ネットワークというか――を通じて、すぐに島中に知れ渡ったらしい。でも、自分の子供かもしれないと名乗り出たドラゴンは、結局一頭も現れなかったとか。それは当然だろう。実際に、ぼくはどのドラゴンの子でもないんだから。
その結果、海の向こうから来たというほくの話は疑われ始め……なんてことは全然なかった。その代わり、高齢で授かった卵を盗まれ失意のまま世を去ったドラゴンの忘れ形見という、ますます涙を誘う新しい設定が追加されることになったらしい。
「んー」
ヴィルが、じりじりとぼくに近付いてくる。
え、何をする気!?




