表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/112

【1-08】 矢

 薄目を開けると、森の中は明るかった。

 ドラゴンの目だからではない。本物の太陽の光だ。

 身体を包んでいるのは、森のさわやかな空気。そして小鳥のさえずりと葉擦れの音。

 キャンプみたいで、ちょっと楽しい。こういう目覚めも、悪くはないかもしれないな。


 今、何時ごろだろうか。時計はないけど、既に太陽はかなり高い。どう見ても、早朝と呼べる時間ではない。むしろ、もう昼前かも。

 でも、ドラゴンは慌てて起きて出かける必要もないし、いつまで寝てたって誰にも文句を言われることもない。このまま、もう少し二度寝してしまおうかな……。


 ……ん?


 しばらく睡眠と覚醒の狭間を彷徨っていたぼくは、腰のあたりに誰かに指でちょんと突かれたような感触を感じて、本格的に目が覚めた。

 首を曲げて振り返ってみるが、誰もいない。そのかわり、体のすぐ側の草の上に、何やら見慣れないものが落ちているのに気がついた。


 細長い棒の一端に三角形の金属片。反対側の端には、数枚の羽。

 これは、矢……だよな、どう見ても。

 鏃には、いかにも鋭そうな刃が金属光沢を放っている。どう見ても、玩具ではない。明らかに相手を殺傷するために作られた、本物の武器としての矢だ。

 何だよ危ないな……と爪で引っかけて遠くへどけようとして、そこでぼくはふと疑問を感じた。


 これ、いつからここにあったんだろう?


 昨夜、ここに来たのはもう夜になってからだったけど、それはドラゴンにとってはあまり関係ない。

 ドラゴンの目は、星の光だけで昼間のように明るく見えるのだ。もしこんなのが落ちていたなら、見逃すはずがない……と思うんだけどなあ。


 その時、一瞬の鋭い風切り音。直後、肩のあたりにさっきと同じような感触。

 ぼくがそこに視線を向けたのと、矢がポトリと草の上に落ちるのがほぼ同時だった。

 再び、鋭い風切り音。目の前で、矢がぼくの体のすぐ横の地面に突き刺さった。衝撃で弾け飛んだ土が、ぼくの体にパラパラと降りかかる。


 えっ? ええっ? これ、狙われてるの? 誰が? ぼくが? 誰に? 何で?


 矢が飛んでくる方向には、大きな茂みが広がっている。ふと意識を集中した瞬間、茂みの中に大勢の人間を見つけた。もちろん姿は見えない。音が聞こえるわけでもない。でも、そこに人がいる気配を、はっきりと感じる。

 いや、気配などという生やさしいものじゃない。

 まるで何かの兵器の照準画面みたいに、視界の中にCGで描かれた人のシルエットが重なって表示されている錯覚すら感じるくらい、はっきりとした確信としてそこに人がいることが理解できる。


 どうしよう? ここは、反撃するべきなのか?


 反撃といっても、ドラゴンってどうやって戦うんだ?

 相手が誰で、どんな理由で攻撃してるのかもわからないのに。

 それに――


 その間にも矢は次々と飛んできて、ぼくの鱗に当たってはコンッと軽い音とともに跳ね返り、地面に落ちていく。


 目覚めの邪魔をされたこと以外には、ぼくは実質的には何の被害も受けてないし。

 とは言っても、いつまでもこのままというわけにもいかないな。

 こういうのって、だいたい最後は矢が目か何かの急所に当たって、ドラゴンがひどい目に遭うのがお約束展開のような気がする。それはちょっと嫌だな。痛そうだし。


 よし。こういう時はとりあえず、逃げよう。


 まだ走り方はマスターしてないので、脚がもつれない範囲でなるべく早く歩いて、矢が飛んでくるのとは逆方向の森の中へ逃げ込む。

 しばらく進んでから振り返ると、もう矢は飛んでこなくなっていた。


 なんとか助かった……のかな?

 ふう、びっくりした。


 落ちついてから体を確かめてみたが、怪我はないようだった。いや、怪我どころか、矢が当たったはずの箇所にいくら顔を近付けてみても、鱗に小さな傷すら見当たらない。どうやらぼくは、矢が当たったくらいでは平気らしい。やっぱりドラゴンは、防御力が高いんだな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ