【5-09】 訪問
「見えてきたよ。あれが私の洞窟」
ルーザンが高度を下げ始めた。その前方には、山の緩い斜面に広がる草の広場。広場の一辺が崖に面していて、その途中に大きな穴が見える。構造はぼくの洞窟とよく似てるな。
でも……。うーん、なんというか……。
そうだとわかっていれば簡単に見つけられるんだけど、もし何も知らずにここを通りかかったとしたら……。森の風景に溶け込んでいて、ここに洞窟があることにすら気付ける自信がない。
他の洞窟もこんな感じだとしたら……。海を渡ってからここに来るまでの間に、中にドラゴンが寝てる洞窟の上を、気付かずにいくつも通り過ぎたのかもしれないな。
洞窟から少し斜面を下ったあたりに、家が何軒か見える。この洞窟の前にも村があるのか。もしかして、ルーザンが連れている二人の巫女は、あの村の出身なのかな?
ぼくの洞窟の近くにある町とは比較にもならない小さな村だけど、距離はこっちのほうが少し近いかも。
ルーザンが広場に着地した。ぼくも、なるべく揺れや衝撃がないように注意しつつ、その横に着地する。少女はシートベルトはつけてないからな。気をつけないと。
着地した直後、ルーザンがお腹を地面につけて座り込むと、二人の巫女が慣れた様子で地面に滑り降りた。なるほど。着地したら、まずはああやって巫女を降ろせばいいのか。ぼくもルーザンを真似て座り込んでみると、うちの巫女もすぐに地面に滑り降りた。
ルーザンが頷く。
「うん、それでいいよ。後は慣れ」
まあ、そうだろうな。少女にとっても、ぼくにとっても。
ところで、この洞窟に住むドラゴンがルーザンと名乗っているということは……。
「つまり、これが『ルーザンの洞窟』?」
「うん。そうそう」
ルーザンが頷く。
「この洞窟は、どうしてルーザンなの?」
「知らない。ずっと昔からそう呼ばれてる」
うん、そうだと思った。
「さ、入って入って」
「あ、うん」
これってもしかして、女の子の部屋にお邪魔するという意味になるのでは……と少し緊張したりしてみたけど、入ってみると特にどうということもない普通の洞窟だった。まあ、それはそうか。
広さは、ぼくの洞窟と似たようなものだな。大きなドラゴンも、二頭なら余裕で入れる。三頭でも、たぶん大丈夫だろう。四頭だと、さすがに身動きがとれなくなりそうたけど。
見回すと、床の隅を小さな川が流れているのを見つけた。これも、ぼくの洞窟と同じだな。ここも水道付き物件なのか。
一角に生活用具一式が置かれた文化的空間があることも、ぼくの洞窟と同じだ。たぶん、ここで一緒に暮らしているルーザンの巫女たちが使うためのものだろう。
ただ、ここはぼくの洞窟と違って、道具類は棚ではなく大きめのテーブルの上にならべてあるけど。
そして、一段高くなった床に布団が敷き詰められてるのも同じだな。敷かれた布団を眺めていたら、ルーザンも横にやって来た。
「それ、人間が持って来て敷いてくれたの。私たちは寝床と呼んでるけど、本当はふとんって言うの?」
「うん。人間はそう呼んでるはず」
ただし、正確には日本ではだけど。この世界の言葉でどう呼ぶのかは、ぼくは知らない。まあ、ドラゴンはどうせそんなことには気付かないだろうからいいとしよう。説明するとややこしくなるし。
「人間のことは、私よりエルンの方が詳しいね」
うん。それは少し自信がある。
全体的な雰囲気は、ぼくの洞窟とよく似てる。
ルーザンの話では、ドラゴンの洞窟はどこもだいたいこんな感じらしい。
ルーザンといろいろ話しているうちに、気が付くと少し薄暗くなってきていた。そろそろ夕方みたいだな。
ドラゴンの目は夜でもよく見えるから、夜間飛行にも特に不安はないけど……。あまり長居するのもなんだし。今日はそろそろ帰ることにするか。




