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【5-08】 洞窟へ

「ねえ、エルン」

 えるん? あ、そうか。エルンってぼくの名前だったな。まだ慣れないけど。

「これから、私の洞窟に来ない?」

「ええ!?」

「私の洞窟の場所も、知っておいて欲しいし」

 どうしよう?

 他のドラゴンの洞窟ってどんなのか、ちょっと興味あるし。これから、何か予定があるわけでもないし。

「……それじゃ、ちょっと行ってみようかな」


 と、その前に。

 ルーザンが、ぼくの洞窟に印をつけてくれた。洞窟入り口脇の崖を登り、入り口のすぐ真上あたりの地面を爪で少し掘って、『+』のようなマークを描く。ドラゴンの世界では、これがこの洞窟に入居者がいることを示す印らしい。だから本来なら、その洞窟に住むと決めたドラゴンが真っ先にしなければならない作業なのだという。

 この印がないと、他のドラゴンが上空を通りかかっても、誰も住んでいない空き家と判断されてしまう。ルーザンも、ぼくがこの洞窟に来てから近くを通りかかったものの、印がないので誰もいないと思って素通りしたことがあるかもしれないという。


 さて、ではルーザンの洞窟に向けて出発……。

「あなたの巫女はどうする?」

「あ、そうか。どうしよう?」

 自分の巫女の扱いは、ドラゴンが自由に決めていいらしい。出かける時は、巫女は洞窟で留守番でもいいし、ルーザンのように乗せて連れて行ってもいい。

「今までに、あの子を乗せたことってある?」

「……一度だけ」

 どこへ連れて行ったのかは言えないけど。

 あの時、乗ってもわりと平気そうだったな。今日は彼女の体調も問題ないから、しっかり掴まる力もあるだろうし。

 よし、たまには連れて行ってみるか。


「あなたたち。そろそろ帰るよ」

 ルーザンが呼びかけると、二人の巫女がすぐに立ち上がり、ルーザンの元へ。慣れた様子でしっぽから腰へとよじ登ると、背中に収まった。うん、今度は確信できた。ルーザンの言葉、あの二人には確実に伝わってる。

 ところで、その頃うちの巫女は……。数歩下がって、すっかりお見送りモード。

 ルーザンが彼女に話しかける。

「あなたも乗りなさい。エルンが、連れて行くって言ってるよ」

 少女が、少し驚いたような戸惑ったような顔になる。それはまあ、今までぼくが散歩に行くときはいつも留守番だったから、いきなり乗れと言われたら戸惑うだろう。でも、ということは彼女にも、ルーザンの言葉がちゃんと伝わってるみたいだな。

 少女が、おそるおそるぼくに近付いてくる。ぼくがしっぽを彼女の体に回すと、ちゃんと意図を理解してくれたらしく、軽く腰かけるように体を預けてきた。しっぽで彼女の体を押し上げて、背中へ移らせる。

「なかなか息が合ってるじゃない」

 ルーザンが笑う。

 うん。これは、毎晩背中を拭いてもらうときにやってるからな。

「じゃ、ついてきて」

 ルーザンが飛び立つ。背中がなるべく揺れないように気をつけながら、ぼくも続いた。


 谷に沿って、ルーザンとならんで飛ぶ。ぼくにとっては、初めての編隊飛行だ。やってみれば、別に難しくはないな。誰かとならんで歩くのと、たいして変わらない。

 ふと気が付くと、ルーザンが、横を飛ぶぼくをしげしげと眺めていた。

「あなた、不思議な飛び方するのね」

「え、そうかな?」

 それはまあ、そうだよな。ぼくの飛び方は完全に自己流だし。正式な飛行生物から見れば、変な飛び方だとしても不思議はない。

 ルーザンとぼくの羽ばたきを見比べてみる。確かに、なんとなく違うような。何が違うんだろう? とりあえず目につくところでは……、翼の角度が違うのか? そこで、ルーザンを真似て翼の角度を少し変えてみると……。うわっとっと。羽ばたく強さは変えてないのに、いきなり体が加速してちょっとびっくりした。

 さっきから、同じ速度でならんで飛んでるはずなのに、ルーザンの羽ばたく回数がぼくより少ないことには気付いてたんだけど……。つまり、ルーザンの羽ばたき方は、それだけ効率が良いというわけか。

 まあ、これでも飛べるんだから、何でもいいと言えばいいんだけど……。せっかく本物の飛行生物と知り合いになれたんだから、改めて正しい飛び方を勉強し直してみるのもいいかもしれないな。


 しばらく飛ぶと、いつも散歩で来る大岩が見えてきた。

「他のみんなはこのあたりまで来ることはまずないんだけど、私はたまに来るの。洞窟から近いし」

 ぼくの普段の行動範囲は、運悪くちょうどドラゴンたちが避けて通る場所の中に入ってたんだな。

「時々知らないにおいがあったから、誰かが来た気配はなんとなく感じてたんだけど」

 ルーザンが笑う。

「どこの洞窟を覗いてみてもいなくて。まだ探してないのはエルンの洞窟くらいだなと思ってたとこだったんだ」

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