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【5-07】 人間

 巫女たちに母親みたいな目を向けているルーザンをぼんやり眺めていると……。やっと、他のドラゴンに会えたという実感がわいてきた。それも、想像してたよりも親しみやすそうな感じの。


 それにしても……。周囲には意外とたくさんのドラゴンがいるらしいのに、全然気付かなかったな。それも、何も知らないぼくが気付かなかっただけならともかく、他のドラゴンもぼくに気付かなかった。

 つまり、他のドラゴンがこのあたりを通りかかったのは、ちょうどぼくが洞窟の中にいる時ばかりだったわけだよな。よほどタイミングが悪かったんだなあ。


「それはそうなんだけど……。実は、それだけじゃないんだよね」

 ルーザンが、ちょっと言いにくそうにする。

「このあたりは、もともと私たちはほとんど通らない場所なの。普通は、みんな避けて通るんだよ。近くに人間がたくさん集まってる場所があるから」

 あの大きな町のことかな? あの町に何かあるのか?

「私たち、人間がたくさんいるところにはなるべく近付かないようにしてるの。人間は、警戒しないといけないから」

 え、そうなの?


「だから、このエルンの洞窟は誰も住みたがらなくて、ずっと空き家のままのことが多いんだ」

 確かに、ぼくが初めて来た時、長い間ドラゴンが住んだ形跡はなかったな。

「あ、でも」

 実際にその洞窟に住んでいるぼくに気が付いて、ルーザンが慌てて付け加える。

「みんなが住みたがらない理由は、近くに人間がたくさんいることだけだから。それ以外は、他と同じ普通の洞窟だから」

 それなら、ぼくは何も気にする必要はないな。むしろ、人間がたくさんいる場所の近くの方が落ち着くくらいだし。


「あ、もしかして……」

 ルーザンが、ぼくの体に鼻を近付けてくる。

「あの丘を下ったのって、あなたじゃない?」

 え、どの丘?

「ここから海への途中にある丘なんだけど。頂上から人間の集まってる場所に向かって、途中まで茂みをかき分けて進んだ跡が見つかって」

 あー、なんとなく心当たりがあるような……。

「跡の大きさから考えて、やったのがドラゴンなのは間違いないんだけど、私たちは自分から人間に近付くことなんてないから。誰だろうって、ちょっと騒ぎになったんだけど……」

 あの時、そんなことになってたのか。それはお騒がせしたみたいで申し訳ない。

「そうか。あれがあなたなら、何も不思議はないよね。あなたは、あまり人間を警戒しないだろうし」

 うん。……うん?

 ぼくは、もちろん人間だというだけで警戒して近付かないなんてことはないけど。むしろ、近付いてもっとよく見たいとすら思うけど。でも、ルーザンは、ぼくが最近まで人間だったことは知らないはず。

 海の向こうで生まれたから? 海の向こうで生まれたドラゴンは、人間を警戒しないのが普通なのだろうか?

 ルーザンが笑う。

「エルンの洞窟って、あなたが住むために今まで空けてあったみたいなものだね」

 うん。それはそうかも。


 ドラゴンって、人間を避けてるのか。ちょっと意外だな。

 ドラゴンも野生動物の一種と考えるなら、人間を警戒するのは当然のこととも言えるけど。でもドラゴンは、さすがに普通の野生動物とは別格の存在だと思うんだけどな。

 それとも、ドラゴンにとっても、やっぱり人間は脅威なのか? たまには、伝説の聖剣を持ってたり強力な攻撃魔法を撃ってくる人間もいたりするのか?

「人間って、そんなに怖いの?」

 ルーザンが、ちょっと戸惑った顔をする。

「別に、怖くはないけど……」

「それなら、どうして警戒するの?」

 何か、ファンタジー小説が一冊書けるくらいの壮大な理由でもあるのかと期待したんだけど、ルーザンは考え込んでしまった。

「そういえば、どうしてだろ? 考えたことないな」

 いや、待って。理由もわからないまま警戒してるの!?

「でも、たぶん人間には近付かないほうがいいの。私たち、今までずっとそうして来たんだから」

 それでいいの!?

 ……いや、いいのかもしれないけど。普通のドラゴンには、無理に人間と仲良くしなければならない理由はないだろうし。


 何かきっかけになった理由があったんだけど、その理由自体はもう忘れられて、とにかく近付いてはいけないという戒めだけが語り継がれているのだろうか? 確かに、ドラゴンと人間が不用意に近付いたら、何かいろいろとややこしいことになりそうな気もするけど。

 まあ何にしても……。とりあえず、既に二回ほど町に突撃したことは、ルーザンには内緒にしておこう。

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