(5-06) 能力
「そうだ、シーナはマナ食べてる?」
「まなって何ですか?」
「あれ」
見ると、ルーザンの聖竜王様が、岩から染み出てくる白い液体を舐めておられました。
ああ、あれなら食べてます。毎日三食、おやつから夜食まで全部あれです。あれ、マナっていうんですか?
「マナとは、大自然に内包されるエネルギーそのもののことです。聖竜王様は、それを取り出すことができるんですよ」
せっかくのフィマさんの解説なのですが……、大自然のエネルギーとは何でしょう? えっと、何だかよくわかりませんけど……。
「つまり、聖竜王様のすごい食べ物ってことですよね?」
二人は、一瞬顔を見合わせた後、笑いながら頷きました。
「うん。だいたい合ってる」
それなら、何も問題ありません。
そのとき、聖竜王様のお声が。見ると、ルーザンの聖竜王様がこちらを向いて鳴いておられます。
「そうだった。シーナは当然、まだ聞いてないよな」
「何をですか?」
「私たちが聖竜王様から授かる能力について」
聖竜王様から、私が?
「私は普通にお世話してただけで、何も授かってなんか……」
「そんなことないと思うよ。聖竜王様が説明しろって言うんだから、条件はもう満たしてるはずだし」
何か条件があるのですか? それよりも……。ネルさん、まるで聖竜王様の言われたことがちゃんとわかってるみたいな言い方……。
「条件は、マナをしばらく、少なくとも十日くらいかな。毎日食べ続けることなんだけど」
それくらいなら、確かに満たしてますけど……。
「それなら、シーナはもう持ってるよ。『聖竜王様の目』と『聖竜王様の耳』」
目と耳ですか?
「例えばさ。さっき聖竜王様の声を聞いた時、頭に何か言葉が浮かばなかった?」
「あ……」
……実は、浮かびました。それまで話したり考えたりしていた内容とはまったく無関係な言葉が、何の脈絡もなく突然。
「……その者に、すべてを説明せよ」
「うん、正解」
ネルさんが、満足そうに頷きます。
「これまでもそんなふうに、聖竜王様の声を聞いた時に、ふと言葉が浮かんだことがあったはずだよ。というか、必ず浮かんだはずだよ」
……はい、浮かびます。気のせいだと思って、あまり深く考えずに流してましたけど。
「気のせいじゃない。それは本当に、聖竜王様の言葉を理解できてるんだ。それが『聖竜王様の耳』」
フィマさんも頷きます。
「その浮かんできだ言葉は絶対に正しいので、自信を持って信じても大丈夫ですよ」
「そして、『聖竜王様の目』」
目もですか?
「暗いところでも見えない? 夜の洞窟とか」
……はい、見えます。最初は真っ暗で何も見えなかったのですが、何日かしてふと、周りがかすかに見えているような気がし始めたのです。それが、日に日にはっきり見えるようになってきて……。やがて、ランプがあるわけでもないのに、聖竜王様のお体を拭くのにまったく不便を感じないくらいにまで見えるようになったのです。洞窟の暗さに目が慣れてきたからかと思っていたのですが……。
「いやいや」
ネルさんが、少し苦笑します。
「夜の洞窟なんて、本当に真っ暗だから。目が慣れたくらいでどうにかなるようなものじゃないから」
それはまあ、そうかもしれませんけど……。
「それが『聖竜王様の目』」
「聖竜王様の洞窟で自由に活動できる目と、聖竜王様の指示を聞き取れる耳は、私たちには絶対に必要なものだから。私たちはマナを通して、必要なものをちゃんと聖竜王様から与えられてるんたよ」
なんということでしょう。私はいつの間にか、こんなすごい力を授かっていたのですね。
フィマさんが、ちょっと誇らしげに付け加えます。
「これは、聖竜王様からマナを食べることを許された私たちだけが手に入れられる、特別な力です。聖竜王様のために、有効に使ってくださいね」
はい。誓います。
「驚いた?」
自分の手を握ったり開いたりしながら見つめていたら、ネルさんが覗き込んできました。
「正直、かなり驚いてます。そんな話、何も聞いてなかったので」
「私だって、これは連絡会の先輩から聞いて初めて知ったんだけどな。こんなことだから、連絡会が必要なんだけど」
フィマさんが、ふと思い出したように洞窟を見回します。
「あ、そういえば……。ここの洞窟は、聖竜王様が出ていったら、次の聖竜王様が来るまで長く空くことが多いと聞きましたけど……」
「あ、そうです。今回も、百年近く空いたとか」
「百年かあ。まともに記録を残すのさえタブーとなると、それだけ空けば、生贄だと勘違いしても仕方ないよなあ」
それはそうかもしれませんけど。でも、ということは……。
「他の洞窟は、そんなに空かないんですか?」
「うん。たいていの洞窟は、早ければ数年、普通は十年くらいで、次の聖竜王様が来る」
それくらいなら、記録を残しておかなくても、前回のことを覚えている人はまだたくさんいるはずですよね。
「でも、そうだとすると、どうしてここの洞窟だけ長く空くのでしょう?」
「さあね。聖竜王様にも、いろいろと事情があるんじゃない?」




