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(4-06) 聖竜王様

 読んでいた聖書から顔を上げて、うーんと体を伸ばしました。

 聖書なんて、子供の頃に簡単に要約された絵本を読んだことがあるだけだったのですが……。正式なシスターとしてそれはさすがにどうかと思ったので、まずは一度しっかり読んでみることにしました。幸い、ここでは時間ならいくらでもありますし。

 改めて読んでみると、まあそれなりにはおもしろいですね。


 でも、今日はいまいち集中できません。どうしても、教会の人から聞いた話が気になってしまって……。

 私にも関係のある話です。というより、完全に私についての話です。


 聖竜王様に関する儀式などは秘儀として扱われているそうで、公表されていません。私も、教会の人に聞くまで聖竜王様に少女を捧げるなんていう話は聞いたこともありませんでしたし。

 実際には、公表どころか教会内でも気軽に話題にするのを躊躇われるほどのものだそうです。その結果、教会にもほとんど記録が残っていないらしくて、すべて手探りでやってるような状態なのだとか。

 それはそうですよね。この洞窟に前の聖竜王様がおられたは、三代も前の司祭様の時代です。当時を直接知る人なんて、もう誰もいませんし。


 教会に伝わる聖竜王様についての唯一と言っていい記録が、いつ書かれたのかもはっきりしない古い一通の文書だそうです。

 その文書には、洞窟に新しい聖竜王様が入られたことを確認した場合は、なるべく速やかに条件を満たす少女を選出し、聖竜王様に捧げなければならないと書かれているそうです。そこで、それに従って私が選ばれたわけです。まあ、そこまではいいとして……。

 その文書によると、選ばれた少女は洞窟に入り、聖竜王様のものとなるのだそうです。教会ではこれを、要するに聖竜王様に食べられるという意味だと解釈したのですが……。しかし、実際に私が洞窟に入ったところ、聖竜王様には私を食べるおつもりはまったくなかったのです。

 これについて、教会では少し揉めたそうですが……。どうやらこれは、文字通りに少女は聖竜王様の所有物となるという意味だと解釈を改めるべきかもしれないと。


 所有物……ですか。

 それについては、私も少し思い当たることがあります。いいえ、思い当たるどころではありません。

 抱いて寝たり、きちんと食事を与えたり。今にして思えば、聖竜王様の私に対する扱いは、最初から一貫してまさに『大事な所有物』という感じだったような気がするのです。

 そうなると……。残念ながら娘ではありませんでしたが、ペットはかなり正解に近かったかもしれませんね。


 でも、もしそうだとしたら……。

 服を脱いでのアピールは間違いだったことになります。私を所有物として受け取ろうとしておられた聖竜王様にとっては意味不明で、混乱されてしまったかもしれません。今思えば、あの時の聖竜王様は、確かに戸惑っておられるような様子だった気もします。

 次からはこのような失礼がないように、私が聖竜王様のことをよく理解して、文書をもっとわかりやすく書き直せればいいのですが……。私に、そんなことができるでしょうか?


 まあ、何にしても、当面私がやるべきことは何も変わりませんよね。

 私はもう、聖竜王様のものなのです。聖竜王様の所有物として、ご期待に応えられるように精一杯がんばるだけです。

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