【4-05】 少女
少女は、机で読書中。
何の本だろう? 挿し絵でもあれば内容が想像できるかもと覗き込んでみたけど、どのページも文字だけだった。
ハードカバーだし、表紙も茶色一色に金色で何かの小さなマークとタイトルが入っているだけだし。なんとなく、とても格調高い本っぽい雰囲気がある。
少なくとも、ラノベみたいなのではなさそうだな。
まあ、それはともかく……。
町から戻って来てから、少女の雰囲気が少し変わったような気がする。以前より元気になった。いや、もともとそれなりに元気ではあったんだけど、何をするにも自信が感じられるようになった……というか。
しぱらく町に戻っている間に、病気の治療以外にもいろいろあったんだろうなあ。
以前はこそこそ隠れていた馬車のおじさんたちとも、堂々と会えるようになったみたいだし。
町にいる間に、おじさんたちと和解したのだろうか? そして、少女とおじさんたちが話し合って、双方合意の上で改めて少女はこの洞窟に……。
少女が何のために戻ってきたのかは、彼女が持ち込んだ荷物を見ればだいたい想像がつく。棚には、彼女自身が使うための生活道具以外にもいろいろとならべられている。その多くは、どう見てもぼくの体の手入れ用だ。つまり、それが彼女の目的なのだろう。
ところで、生活道具一式を持ち込んだのは、彼女がずっとここで暮らすつもりだからだと思うけど……。それはつまり、ぼくに食べられる予定はキャンセルになったという意味でもあるはずだよな。
しかも、馬車で荷物ごと送ってもらったのだから、それは彼女が勝手に決めたことではなく、彼女を生贄にしようとしていた側のおじさんたちも了承済みということになる。
以前の彼女は、既にぼくに食べられて存在しないはずの人間だった。それが今では、おじさんたちからも公認の立場としてここにいるわけだ。
それが、彼女の自信につながってるんだろうな。
それにしても、目的がぼくに食べられることではなくなったとなると、少女を洞窟から追い出す理由は、本当に完全になくなってしまったな。
まあ、彼女を正式に洞窟に受け入れるのは別にかまわないんだけど。そうなると、これからぼくは彼女をどう扱えばいいのだろう? そのあたりをはっきり決めておかないと、これまでみたいに曖昧なままでは済まないよなあ。
これまでの行動や雰囲気などから総合的に判断すると……。彼女は、常に全面的に信用できる味方という扱いで大丈夫な気がする。
そして、もし彼女がぼくの味方なら、ぼくにとって危険な人間が洞窟に近付いて来たら、警戒したり追い返したり、何かそれなりの対応をするはず。でも、彼女はあの馬車を、特に警戒せずに受け入れたように見えた。つまり、あのおじさんたちもぼくの味方ということになるのか?
あのおじさんたちがどういう立場なのかがわからないので、全面的に信用するのは少し怖い気もするけど……。とりあえず、警戒するべき敵ではないという程度までは信用しても大丈夫か?




