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【4-03】 洞窟の午後

 今日は午後から、どうも少女の様子がおかしい。なんかこう、妙に落ち着きがない。

 彼女は、午前中に用事をだいたい済ませて午後はのんびり過ごしてることが多いんだけど……。今日は午後からずっと、そわそわと洞窟を出たり入ったりを繰り返している。何かを待っているのか?


 こんな森の奥の洞窟に、少女がそわそわしながら待たなければならないような特別なイベントなんてあるだろうか? 少なくとも、ぼくにはそんな予定は何も入ってないけど。


 しばらく少女を眺めているうちに、ふと遠くから聞こえてくる音に気が付いた。ああ、いつもの馬車だ。この音も、そろそろ聞き慣れてきたな。

 今度は何をしに来たんだ? あの馬車、まだ攻撃されたことは一度もないけど、来るたびに妙なものをいろいろと持って来るからな。いまいち油断できない。

 洞窟の入り口まで行って、外を窺う。あ、来た来た。今日も一台だけか。あまり大掛かりな準備が必要な用事ではなさそうだな。


 ぼくの様子で異変に気付いたのか、少女もやって来た。

 なんか、以前にもこんなことがあったな。あのとき少女は、馬車のおじさんに見つからないように慌てて隠れたけど。

 今度はどうするのかと思ったら……。少女は何の躊躇もなく洞窟を出て、平然と馬車の方へ歩いて行く。隠れるのはやめたのか。

 もしかして、彼女がそわそわしてたのは、この馬車を待ってたからか?


 今日は馬車が停まっても誰も降りて来ないなと思っていたら、少女が馬車に近付いてドアをノックすると、やっとおじさんが降りてきた。今まであんなのは見たことないけど、どういう意味だろ?

 重要人物なので、まず少女が周囲の安全を確認してからとか? それとも、実は少女のほうが立場が上で、彼女の許可が出るまでは馬車から降りることも許されないとか?


 降りてきたおじさんは、少女と何やら話を始めた。何を話しているのかはわからないけど、あまり険悪な雰囲気には見えないな。

 ぼくに対しても少女に対しても、攻撃の意図はなさそう。これなら、そんなに警戒しなくても大丈夫……か?


 とりあえず、今すぐ攻撃を受けて逃げ出したり反撃したりする必要はなさそうだと判断。ぼくは少し緊張を解いて、目は馬車とおじさんから離さないものの、一旦お腹を地面に付けて座り込んだ。

 その時、馬車に繋がれている馬たちが、ぼくの方を見ながら何やらさかんに前脚で地面を掻いているのに気が付いた。

 何だろ? ぼくに何か?


 あ、挨拶か!

 そうか。ぼくに挨拶したがってるのは、森の野生動物だけではないのか。

 でも、今までも馬車は何度も来たけど、馬たちがこんなに積極的に挨拶してくることはなかったよな……。もしかして、ぼくが馬車を警戒していたので、空気を読んで控えていたのか?


 そういうことなら、ちゃんと返事してやろうか。

「遠いところ、ご苦労さん」

 あ、馬たち、満足そう。


 ぼくが馬たちと交流を深めている間も、少女とおじさんの話は続いている。かなり込み入った話なのか? わりと和やかそうな雰囲気に見えるから、そんなに深刻な話ではないとは思うけど。


 しばらく見ていると、おじさんが馬車に乗り込んだ。話し合いは終わったみたいだな。

 森へ消えて行く馬車を見送った後、少女は洞窟へ戻って来た。そういえばあの馬車、今日は何も持って来なかったな。今日の目的は、少女と何かを話し合うことだけだったらしい。


 洞窟に戻って来た少女は、岩に座ってのんびり本を読み始めた。あ、いつもの調子に戻ったみたい。

 やっぱり、そわそわしてたのはあの馬車を待ってたんだな。

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