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【4-01】 洞窟の朝

 目を開けると、洞窟の入り口から朝日が差し込んでいた。

 目が覚めた理由は、布団の上にぺたんと広げた翼の下で、もぞもぞと動く気配を感じたから。翼を上げると、少女が体を起こし、ぼくに向かってむにゃむにゃと何か言った。言葉はわからないけど、たぶん朝の挨拶……だろうと推測する。ああ、おはよう。

 ちなみに、寝る時はちゃんとパジャマに着替えてるあたり、洞窟暮らしにしてはなかなか芸が細かい。


 あくびしながら布団から這い出た少女は、とりあえず服を着替え……。いや、待て! だから、ぼくの目の前で平然と服を脱ぎ始めるなとっ!

 ……横向いてるから、早く着替えなさい。


 着替え終わった少女は、朝一番の作業である洗濯を始める。

 少女が洗濯を終えたら朝食だ。彼女が外に洗濯物を干しに行ってる間に、いつも食事場所にしている岩の前に移動して待つ。


 あ、戻ってきた。では、朝食にしよう。今日はどの味がいい? うん、ではこのあたりで行くか。

 ぼくが岩を舐めて岩ミルクを出している間に、少女は洞窟の隅に置いてあった大きな木のタライを持ってくる。そして、岩ミルクが流れ出し始めた岩の真下に置く。

 このタライは、なかなか便利。地面に溜まって固まった岩ミルクを食べる時、たまに油断して深く食べ過ぎると地面の砂や小石を一緒に食べてしまうことがあったんだけど、これでそれを心配する必要がなくなった。

 岩ミルクはただでいくらでも出せるし、食べ残した分はしばらくすると勝手に消えてなくなるから、贅沢に上の方だけを食べれば済む話だとは思うけど。つい、なるべく残さないようにと下まで食べてしまう。

 彼女も、ぼくが慌てて小石を吐き出しているのを何度か見ているはずだから、こんなのを用意してくれたんだろうな。


 タライを置いた少女はもう一度洞窟の隅に戻り、次は皿を持って来る。そして、流れ落ちる岩ミルクをその皿に受けると、スプーンを使って食べ始めた。洞窟の中にしては、ずいぶんと文明的な食事風景だなあ。


 食器だけではない。少女は今回、生活用具一式をまるごと持ち込んできた。これまでは服が積み上げてあるだけだった洞窟の隅に棚が設置され、今ではさまざまな日用品や道具類がならんでいる。洞窟の一角に、妙に文化的な空間が誕生してしまった。

 しかも、さらに隣には、小さな机まで置かれている。少女は時々、その机で本を読んだり書き物をしたりしている。

 ただし、椅子はない。荷物を減らすためなのか、椅子は適当な岩で代用することになっているらしい。


 でも、ぼくが邪魔だと感じない絶妙な位置に棚や机を置いたのはさすがだと思う。彼女は既に、洞窟内でのぼくの動線を知り尽くしているからな。


 食事が終わると、彼女は自分の食器とぼくのタライを洗い、もとの場所へ収納する。はい、ご苦労さん。

 さて、今日はどうしよう?

 外を覗いてみると……。いい天気みたいだな。こんな日は、洞窟前の岩で日光浴でもするか。


 洞窟の入り口へ向かう途中で、ふと光るものが目に入った。

 彼女が持ち込んだものの中で、ひとつだけ意味不明なのがこれ。洞窟の壁の窪みを利用して設置された、謎の物体。金色に輝く、小さな鍵のような形の……。何だろうこれ? 彼女が何かに使っている様子はないので、ただの飾りだと思うけど。

 何か、おまじないみたいなものなのだろうか? 鍵の形から推測して、こうしておくと泥棒に入られないとか? 町に行けば、どこの家の玄関にもこうして飾ってあるのかもしれないな。

 ドラゴンの巣穴を狙う泥棒がいるかどうかは知らないけどな。というか、もしいるとしたら、それは泥棒ではなく冒険者なのでは?


 まあ、いいか。何にしても人間界の風習であって、ドラゴンが気にすることではないだろう。別に邪魔になるものでもないし。

 さて、昼まで岩でごろごろしようっと。

4章は重要な場面と重要な場面の間にはさまる繋ぎの章なので、あっさりと短めで終わります。

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