【1-06】 夜
これからのことなんかをぐるぐる考えながら森を彷徨うこと……、どれくらいだろう? 時計がないので正確にはわからないけど、たぶん数時間は歩いていたと思う。
ふと我に返ると、視界に異変が。なんだか、少し薄暗くなってきたような……。
雨でも降るのかな?
歩いていると、森の中に一部だけ木がなく空き地のように開けている場所を見つけたので、空を見上げてみると――
あれ?
頭上に広がっていたのは、ぼくが想像していた曇り空とはかなり違うものだった。紺色の空に瞬く無数の星。地平線に夕焼けの名残と思われる淡い光が少し残っているものの、これはどう見ても夕方ではない。完全に夜と呼ぶべき時間だろう。
いつの間に夜になったんだろう。全然気がつかなかった。
かなり歩いたから、時間的には夜になっても不思議はないけど。それに、ずっと足下に気をつけて歩いていたから、途中で空を見上げたりはしなかったし。そもそも森の中では、頭上に木の枝が広がってるから空はほとんど見えない。
しかし、それにしても、夕方どころかこんなに真っ暗になるまで気がつかなかったなんて……。
いや、真っ暗……ではないな。
そうか、明るいんだ。だから気がつかなかったのか。
周囲を見回してみると、昼間よりは多少薄暗くなったと感じる程度で、普通に見える。雨の日の昼間くらい?
夜の森なんて、完全に真っ暗なはずなのに。ぼくはランプや懐中電灯は持っていないし、もちろんこんな森の中に街灯なんてあるわけがない。そもそも、そのような照明器具で部分的に照らされているという雰囲気ではない。遠くの木や山まではっきり見えるくらいに、森全体が明るい。
もしかして、これがドラゴンの目なのか?
真っ暗なはずの夜の森の中でも、星の光さえあれば昼間と変わらないくらいに明るく見えるのか? 影になっているはずの茂みの中を覗き込んだり、森の中と空き地の明るさを比べてみたり、いろいろ試してみるが、そうとしか考えられない。
これなら、夜だからといって特別に意識する必要はないな。周囲がこれだけ明るく見えれば、何の制限もなしに昼間とまったく同じように活動できる。
こんな目を持つということは、ドラゴンは夜行性なのかもしれない。
もしそうだとしても、今日は昼間ずっと活動していたからな。夜は普通に寝ることにするか。
この空き地、程よい広さだし、地面は草地で寝心地も良さそうだ。今夜はここで寝ることにしよう。
昼間に試したことを思い出して、前後の脚を曲げて地面にうずくまった姿勢から、首としっぽを草の上に投げだしてみる。全身の力を抜いて目を閉じると……。うん、これなら寝られそう。