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(3-25) 修道女

本文中に出てくる規則や儀式の様子などは、すべて私が想像で書いただけのオリジナルです。実際とは全然違うかもしれません。まあ、別の世界の話なので……。

 しばらくして、私は無事に診療所を出ることができました。

 実際、病気はたいしたことなかったらしいです。ちょっと疲れが溜まってただけで。


 いえ、それよりも。

 実は昨日また教会の人が来て、私に聖竜王様の洞窟へ戻る許可が出たことを知らされたのです。それも、食べられるのを待つ供物としてではなく、正式な聖竜王様専属のお世話係として。

 ただ、それにはひとつ条件があって……。


「では、教会へ行こう」

「はい」

 診療所の前では、教会の人が待っていました。教会が家族のいない私の身元引受人になってくれたからでもあるのですが、それだけではありません。私は、これから教会に行って、着衣式を受けることになっているのです。

 条件とは、修道女(シスター)になること。

 本来なら禁域のはずの洞窟で、聖竜王様と寝食を共にするのです。もし許可されるにしてもかなり厳しい条件が付くことは覚悟していたのですが、そのくらいで許してもらえるそうです。まあ、聖竜王様をあまり長くお待たせするわけにもいきませんし。

 ……自動的に、私の就職先も決まりました。シスターというのは、ちょっと予想外の方向性でしたけど。


 大勢の参列者に見守られながら、私はゆっくりと聖堂内を進み、祭壇の司祭様の前で立ち止まりました。

「ここで跪いて」

「はい」

「胸で手を組んで」

「はい」

 本来なら式に臨む前にしっかりと段取りを覚えなければならないのですが、私の着衣式は急遽決まったことで、そんな時間はありませんでした。そこで、ベテランのシスターさんに横について小声で指示を出してもらい、その通りに動くことになりました。こんな形での着衣式は、かなり異例……でしょうね、やっぱり。


 司祭様が、きれいにたたまれた真新しい修道服に手をかざし、聖別を施されます。

「神の道を志すことを決意した者、シーナ=サートルよ。修道服を受けるがよい。神にその心を捧げる者の印として、聖竜王にその身を捧げる者の印として、この衣を纏いなさい」

「はい。感謝します」

 ここで、私は一旦聖堂から出て隣の控え室へ。何人かに手伝ってもらいながら、私はいよいよ初めて修道服に袖を通しました。

「ほら、こっちに来てみなさい」

 着替え終わったところで、大きな鏡の前に立たされました。

「どう?」

「え、えっと……」

 まあ、着慣れない服なので、ちょっと恥ずかしいというか落ち着かないというか。

「うん、なかなか似合ってるわ」

「あ、あはは……」

 正直、いくら眺めてみてもお芝居かなにかの仮装にしか見えません。でも、今日からこれが、私の正装なのですよね。


「今この時より、求道者シーナ=サートルを、共に神の道を歩む新たなきょうだいと認め、歓迎をもって迎える」

 司祭様の厳かな宣言と、参列者席からわき起こる祝福の声。

 えっと。全然実感がありませんけど、どうやら私、本当にシスターになってしまったみたいです。

 本来、シスターになるには、まず教会や修道院で見習いとして数年間すごしてから偉い人の推薦を受けなければならないとか、そんな感じの規則があったはずです。しかし、私は特別にそれらをすべて免除され、いきなり今日から正式なシスターです。教会の人の説明によると、私が聖竜王様の洞窟ですごした約1ヶ月の時間は、何年もの見習い期間にも等しい価値があるから。

 聖竜王様の洞窟に入って、こうして生きて出て来られたことそのものが、私が聖竜王様から選ばれてお側にいることを許された何よりの証なのだとか。

 見習い期間とは、その人が聖職者にふさわしい人物かどうかを見極めるためのもの。だから、聖竜王様から直接認められた私には、今さらそんなものは必要ないのだそうです。


 着衣式は終わりましたが、今日の予定はまだ終わりではありません。引き続き、私の修道院長への任命式が進行中です。

 修道院長なんて、普通はベテランシスターのおばあさんたちの中から選ばれるべきものです。シスターになったその日にいきなり修道院長なんて、どう考えても異例中の異例です。

 教会の人の説明によると、聖竜王様の洞窟そのものが、今日からひとつの修道院という扱いになるそうです。

 そして、私がその院長に。

 私はそこで、聖域の森を管理しながら、聖竜王様のお世話をして暮らすことになります。


 ただ、その修道院に所属するシスターは私一人だけ。だから、何の経験も実績もない私が院長でも、誰も文句は言いません。

 結局のところ、すべては私が聖竜王様の洞窟で暮らすことを認めるための方便で、形だけですね。だから、院長と言っても実際には全然偉くありません。


 司祭様が、金色に輝く鍵を掲げ、参列者に示します。

「聖竜王の住まう洞、天なる者と人の子がまみえる地、聖竜王修道院の鍵を、シスター・シーナに預ける」

「受け取って」

「はい」

「両手で!」

「あ、はいっ!」

 修道院長の任命式では、その人がこれから院長に就任する修道院の本物の鍵を使うのが恒例だそうです。でも、洞窟には鍵なんてありませんので、私が受け取ったのは鍵の形をしているたけのただの飾りです。

 まあ、せっかくなので、どこかに飾っておきましょうか。


 ちなみに、院の具体的な活動内容や規則などは、院長である私が自由に決めていいそうです。つまり、今まで通りやればいい……ということですよね?




 式を終えて外へ出ると、馬車が準備を整えて待っていました。前回、この馬車に乗って洞窟に向かってから、まだ1ヶ月ほどしか経ってないのですよね。もう何年も前みたいな気分ですけど。

 馬車には、いろいろな荷物が積み込まれていました。今回は供物として捧げられに行くのではなく、教会の関係者としての正式な赴任なので、教会が洞窟での生活に必要なものをいろいろ用意してくれました。

 あと、聖竜王様のお手入れ用具も。とりあえずあり合わせのもので済ませていた今までと違って、本格的な道具をいろいろと揃えてもらえました。

 これで、聖竜王様には今まで以上にきれいになっていただけそうで楽しみです。

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