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【3-21】 川

 ふと気が付くと、少女の姿が見当たらない。周辺の気配を探ってみると……。

 あ、いたいた。

 洞窟から少し行った森の中に、少女の気配を発見。川のあたりだな。水浴びでもしてるのか?


 特に彼女に用事があるわけでもないんだけど、何となく気まぐれで、川の方へ行ってみる。

 森の中から首を伸ばして何気なく川を覗き込んだぼくは……、次の瞬間、反射的に首を引っ込めた。


 い、いや、落ち着け。そうだ。考えてみれば、当然のことだよな。

 彼女は、ほとんど身ひとつでやって来て、そのままずっと森の奥の洞窟で暮らしている。当然、好きな服を自由に手に入れることなんてできるはずがない。つまり、彼女が今持っている服は、先日ぼくが町から奪ってきて渡したあの服だけのはずなのだ。そして、あの中には確か……、水着は含まれていなかったはず。

 ということは、当然――


 ふと前脚を引っ張られる感触に気付いて見下ろすと、少女がぼくのそばに立っていた。ぼくに気が付いて、いつの間にか足下にやって来ていたらしい。

 少女が、笑顔で川を指す。

 えっと、これは……。「一緒に川で遊ぼうよ」かな?

 ぼくが川の方向へ歩き出すと、彼女も嬉しそうに、ぼくを先導して歩き始めた。あ、正解だったみたい。


 というわけで、ぼくは今、川の中に寝そべっている。

 山奥の小さな谷川だから、幅も深さもたいしたことはない。一番深い場所で川底にお腹を着けて寝そべってみても、ぼくの体の大きさなら、まだ背中は十分に水面から出ている。

 そして、彼女はそんなぼくの背中と岸の間を往復してみたり、片手でぼくの背中につかまりながら周囲をぐるぐる回ってみたり、楽しそうに泳ぎ回っている。


 あー、少女よ。念のために言っておくけど。

 ぼくは、あくまでも生きたドラゴンであって、決してドラゴン型の浮き袋ではないからな?

 そのあたり、間違えないように。


 それはともかく。

 最も問題なのは、その少女が裸である点なんだよな。

 まあ、ここなら誰にも見られる心配はないだろうけど。こんな森の奥まで来る人間なんて、まずいないだろうし。まして、ドラゴンの巣穴のすぐ前の川なんて、頼まれたって誰も来ないだろうからな。裸で泳ぐくらいなら、たいして問題は……。

 ……いや、ぼくが見てるんだけど!?


 しかももっと困るのは、彼女はぼくのことを、裸を見られると恥ずかしい相手だとは全然思ってないらしいことなんだよな。ということは当然、ぼくの目の前でも隠そうともしないわけで。

 現実の世界では、漫画やアニメの中みたいに突然謎の光が差し込んできて大事なところを隠してくれるなんていう都合のいい演出もないし。

 目のやり場に困るなあ。


 川で全裸の少女と戯れるというのは、ドラゴンの役得に含まれているんだろうか? そもそも、役得なんていう言葉で済ませてしまってもいい問題なんだろうか?

 今、ぼくはドラゴンなんだから、人間の倫理観なんて気にせずに堂々としてても別にかまわないのかもしれないけど。それにしてもなあ……。


 あ、こら。ぼくのしっぽに跨がるな!

 だから、浮き袋じゃないと……いや、そうじゃなくて! 裸で跨がったら、大事なところがぼくの鱗にまともに触れてっ!


 あ、びっくりして、思わず少女を振り落としてしまった。

 まあ、いいか。水の中だから怪我はしないだろう。彼女も、ぼくがふざけてやってるんだと思って、かえって喜んでるみたいだし。


 いや、待て待て! だからと言って、意地でも跨がろうとするなーっ!!

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