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(3-20) 散歩

 広場の掃除をしていたら、洞窟から聖竜王様が出てこられました。お散歩でしょうか?


 聖竜王様は、翼を開くことなく、広場を横切って森の方へ歩いて行かれます。

 聖竜王様のお散歩には、遠くの山の方まで飛んでいく長距離コースと歩いて森を回ってくる短時間コースの二種類があるみたいです。今回は短距離コースの方ですね。いってらっしゃいませ。


 と思ったのですが、聖竜王様は森の入り口あたりで立ち止まり、また引き返してこられました。

 何か、忘れ物でしょうか? いえ、そんなはずはないと思うのですが。

 戻ってこられた聖竜王様は、まっすぐ私のところに。え、えっと、私……ですか?

 これまでの経験では、聖竜王様が私の体を鼻やしっぽで押される時は『そちらへ進め』という意味のことが多いのですが……。

 今回は、えっと、森の方……へ行けばいいのですか? もしかして、今日は私もお供をせよと?




 私は今、聖竜王様とならんで森の中を歩いています。

 普通に歩けば、体の大きな聖竜王様のほうがずっと速いはずなのですが……。ちゃんと、私の速さに合わせてゆっくり歩いてくださっています。

 洞窟で暮らしていると、森を歩くのは毎日のことで、もう慣れましたけど……。聖竜王様と一緒は初めてです。

 聖竜王様から散歩のお供に指名されるなんて、とても名誉なこと……ですよね、たぶん。


 しばらく歩くと、川に出ました。

 聖竜王様はそのまま川に入っていかれます。川を渡るみたいですね。

 でも、ここは人間が歩いて渡るには少し深い場所です。確か、ここから少し行ったところに岩伝いに川を渡れる場所があったはずです。急いでそこを迂回して、と思ったのですが……。

 その時、聖竜王様のお声が。なんとなく『待て』と言われたような気がして、歩き出そうとしていた私は反射的に立ち止まりました。そんな私の脇の下に、聖竜王様のしっぽが伸びてきて……。

 聖竜王様のしっぽに抱え上げられた私の体は、川を越えて無事に反対側の岸に着きました。

 あ、あの……。えっと、ありがとうございました。


 聖竜王様が、立ち止まられました。ここに何かあるのでしょうか?

 聖竜王様が、何やら首を上に伸ばしておられます。見上げてみると……、木の枝に何か赤いものが見えますね。あれは……実でしょうか?

 聖竜王様は、それをひとつもぎ取って……。え、それを私に?


 これ、たぶんナルですよね。

 見上げると、聖竜王様も食べておられます。聖竜王様があの岩から出てくる白いの以外を食べておられるのは、初めて見ました。

 で、では、私もいただきます。

 うん、甘くておいしいです。間違いなくナルですね。私も好きな果物です。

 でも、ナルをひとつ丸ごと食べたのは、実は生まれて初めてなのです。けっこう高価な果物なので、孤児院では年に数回の特別な日に、一人に一切れづつが精一杯でした。

 小さい頃、ナルをお腹いっぱい食べるのが夢だったのですが……。こんな形で叶うとは思いませんでした。


 もしかして、私をお供に連れてきたのは、森で見つけたおいしい木の実を私にも食べさせたくて……?

 えっと、『とてもおいしかったです』って、どうやったら聖竜王様に伝えられるのでしょう?



 再び聖竜王様と一緒に洞窟に戻る途中で、ふと思い出したのですが。

 ナルには『聖竜王の果物』という別名があると聞いたことがあるのです。その理由が、なんとなくわかったような気がします。

 たぶん、聖竜王様があの白いの以外に食べられる、数少ない普通の食べ物のひとつなのでしょうね。

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